猫の群れ

連喜

第1話 出会い

*本作は、ホラー・ショート・ストーリーズの中の一編を加筆したものです。


 俺がA子と結婚したのは、はっきり言って金のためだった。彼女は資産家令嬢で、親は有名な会社の社長だった。本人の職業は公認会計士。監査法人のパートナーだったから、高収入だった。多分、年収1800万くらいだろうか。俺と結婚した時は、タワマンの上層階を所有していた。


 初めて出会った時、彼女は38歳。美人でパーフェクトなボディ。巨乳でお色気ムンムンだった。きっと、過去に男と色々あったに違いないという感じだった。その頃、俺は28歳で小さな会社に勤めていた。もともと、有名私立大学出身で大企業に勤めていたのに、メンタルを病んで辞めざるを得なくなってしまった。その後、しばらく自宅療養した後、負担の少ない中小企業に転職していた。もちろん同級生には会いたくないし、周囲に大学名を言いたくなかった。

 でも、社内では〇〇大卒ということでモテていた。


 こんなのは全然嬉しくないことだった。中小企業でいい大学を出てると、かなりの確率で虐めに遭う。俺の職場でも『自慢しやがって』みたいな雰囲気が常にあった。俺は会社を辞めたくて仕方なかったし、普段知り合う女のレベルが低くて、付き合いたいというような相手は一人もいなかった。


 その頃、仕事関連で出会ったのが彼女だった。年増だけど高嶺の花っぽくて、俺の征服意欲を刺激した。彼女は会計士だから、監査のために月1くらいで会社にやってきた。はっきり言って彼女みたいな立場の人が毎月来るのはおかしかった。大体は見習いみたいなのがやって来て、帳簿を見たりして、高い顧問料をかっさらって行くのが普通だ。言っちゃ悪いけど、こういう業界の人はできの悪い人が多くて、こっちが精神的に参るくらいだ。

 でも、税理士資格を持っていたり、科目合格していると、仕事には困らない。一般企業にはいないようなポンコツでも、自分が仕事のできるやつだと思って生きている。税理士でも平気で間違ったことを回答したりする。他から間違っていると指摘されて、本人に伝えると『専門外なので・・・』と、開き直る。こういう人が一等地にある事務所にいたりする。


 顧問先は簡単に会計事務所を変更できないから、我慢してつき合っている。そんな人が多い中、彼女はまともだった。新卒後、一般企業に就職して、会計士試験を目指したから常識があって、バランスの取れた人だった。その監査法人の担当者が変だったから、俺はずっと彼女にだけ質問して、連絡先にばんばんメールを送っていた。


 俺は彼女が会社に来ると、人目を憚らず積極的に話しかけた。上司も気を使って「江田君はまだ独身なんですよ」と言ってくれたほどだ。俺がいかにもな雰囲気を出しまくっているから、周りが気を遣って、彼女と2人っきりにしてくれることもあった。彼女も若い男に好意を持たれてまんざらではなさそうだった。こんな感じだったから、俺たちが親しくなるのに時間はいらなかった。


 彼女と出会って、3ヶ月後、俺は上司を含めて4人での食事会に誘った。そこで、色々話して、プライベートの連絡先を聞き出した。その後、何回か食事に行って男女の仲になった。


 でも、後からわかったのは、彼女は意外と真面目な人だったってことだ。食事に行っているだけの頃から、すぐに俺との結婚を考えていたようだ。彼女がもうちょっと若かったらと思うけど、もし、33歳くらいだったら、中小に勤める冴えない会社員なんかにチャンスが回って来るわけなかった。彼女はもともと、会計士とか、会社経営者と結婚したかっただろうけど、そういう人は人気があるから、あえて彼女みたいな年増の女性とは結婚しないだろう。


 俺は仕事がそんなに忙しくないから、育メンになってくれそうだし、若くて素直で操縦しやすく見えたのかもしれない。彼女は38になって大幅に妥協して俺に落ち着いたんだ。それに、俺の精子が欲しかったんだと思う。絶対そうだ。若いし、高身長、高学歴、そこそこのイケメンだったから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る