第94話

「それにしてもフレッド様は最初ジョン様の事を本当に嫌ってましたね」


ロレッタは昔を思い出しクスクスと笑う。


「あれは……」


フレッドは罰が悪そうに渋い顔をする。


「まさかフレッド様が…ぷッ…」


ロレッタは耐えきれずに吹き出した。


「まさかロレッタの言うジョンが幼い頃に飼っていた犬だとは思わないさ」


「フレッド様ずっとジョンの事を勘違いなさって私との関係を問いただしていましたよね」


「ロレッタがいけないんだ、抱かれたあとに他の男の名前を言うから…」


「他の男性の名前じゃありませんよ。犬のジョンです、それに夢の中のことです」


ロレッタは終始ニコニコと笑っている。


「それでも私には不安になったんだ」


そんなロレッタにフレッドは面白くなく腰に回した手をそのままロレッタの手に伸ばして握りしめた。


「旦那を虐める悪い妻はどの子かな、おしおきが必要か?」


フレッドがジロっと見つめるとロレッタは目を見開いてクスッと笑う。


「フレッド様のおしおきは私にはおしおきになりませんよ…それに…」


ロレッタが下を見ようとすると…


「フレッド様!やっぱりここですか!?」


後ろからはぁはぁとかけてきた声が二人を呼び止める。


「隙あらばロレッタ様の元に向かうのやめて頂けませんか?」


噂をすればなんとやら、困り顔のジョンとシドがフレッドを迎えに来た。


「フレッド様、これから隣国の件で会議があると言っておきましたよね!」


「げっ…わかっているがまだ大丈夫だろ」


フレッドはサッとシドから目を逸らした。


「もう終わりです!ロレッタ様とはまた夜に会えるでしょうが!」


「夜にしか会えないなんて耐えられない!それにどうせ遅くなるんだろ?」


シドは何も言わずに笑って誤魔化す。


「フレッド様、私はずっと起きて待ってますからお仕事頑張って下さい」


ロレッタはフレッドの手を握りしめて約束する。


「いや…ロレッタにはしっかりと休んで欲しい、だから無理せず寝ていてくれ」


フレッドはロレッタの優しさに癒された。


「そうですよ!ロレッタ様は今は大事な時です。ゆっくりとお休み下さい」


いつの間にか後ろに来ていたエミリーさんが鼻息荒く注意する。


「わかってるよエミリー、ロレッタも一人の体ではないんだからしっかりと休んでくれ」


フレッドは少し大きくなったロレッタのお腹を優しく撫でた。


「わかりました。ではいつもしてくださるマッサージは今日は我慢しますね」


ロレッタはそっとフレッドに耳打ちする。


「それは…ロレッタが寝ていてもするから安心しろ」


フレッドはロレッタにだけ聞こえるように囁いた。

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