第82話

「ロレッタ様はどのような気持ちでそれを縫っているのですか?」


エミリーがまさに聞きたかったことを聞いてくれる。


「私は非力です、こんな私でもどうにかフレッド様のお役に立ちたいですが…出来ることは少ないとわかっています。しかもこれからコスリガに帰ればフレッド様の身に何があるかわかりません、そんなフレッド様を少しでも守れるようにと思いを込めました」


「それはフレッド様は喜ばれますね」


エミリーが微笑みながらロレッタの肩に手をそっと置いた。


「いえ、この事を言えば優しいフレッド様は喜んでくれると思いますが、それが負担にでもなったら嫌なので…そっと荷物に入れさせていただきます」


「そんな!もったいないです!」


「いいの」


ロレッタが眉を下げて笑うと最後の仕上げとばかりに糸を切った。


「出来た…」


ロレッタはそれを持ち上げると、出来栄えを確認するように広げて見る。


それはフレッドにちょうど良さそうなマントだった。


ロレッタが自分の為にマントに刺繍を入れていたのかと思うと愛しさしかわかない。


フレッドはそっとロレッタを後ろから抱きしめた。


「キャッ!」


ロレッタは驚き跳ねると後ろを振り向く。


「何をしていたんだ?」


とぼけたように声をかけると慌てた様子でマントを隠した。


「な、なんでもありませんわ。それよりもいつの間にお部屋に?」


「ん?ロレッタの部屋に入るのに許可が必要だったか?」


「い、いえ。そんな事ありませんが…」


ロレッタはチラッとエミリーに視線を送るとエミリーはクスッと笑っていた。


「私はおいとまいたしますね。ロレッタ様、フレッド様に会いたいとおっしゃってましたよね、ごゆっくりと久しぶりのお二人のお時間を楽しんで下さい」


「エ、エミリーさん!」


ロレッタは自分の気持ちをバラされて真っ赤になる。


そんなロレッタを置いてエミリーはサッと部屋から出ていってしまった。


ロレッタは気まずそうに立ち上がりソワソワとしだす。


「い、今お茶を入れますね」


空気に耐えられないと部屋を出ていこうとするとフレッドがそっとそれを阻止した。


腕を掴んでロレッタを引き止めると自分の方を向かせた。


「エミリーが言ってた事は本当か?」


「は、はい?なんの事でしょうか」


恥ずかしそうに下を向いて顔を逸らす。


「さっき私に会えなくて寂しかったと聞こえたが…そうか、嘘か…」


残念そうしてあからさまに肩を下げた。


「すみません! 本当は、嘘じゃありません…少しの間しか離れていないのにそんな事を言うなんてわがままですよね。ここに来てからフレッド様と毎日の様に居たので、それが当たり前になってしまっていました。これからはこんなに甘えていては駄目ですね」


ロレッタはすみませんと頭を下げた。


「そうか?私は嬉しいな、同じ思いだったからな」


フレッドは慈愛の満ちた顔でロレッタを見つめる。


「え?」


戸惑うロレッタをそのまま抱きかかえてベッドへと連れて行った。


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