第50話
「おい!俺はコスリガ国の王子だぞ!それなのにこの対応はなんだ!お前では話にならん!責任者を呼んでこい!」
ジョージ王子は唾を吐き出しながら怒鳴り散らし興奮していた。
「ジョージさん、あなたはもうコスリガ国の王子ではないですよね?ですから庶民の方と同じように入国審査をしてもらいます。危険物など持ち込まれては大変ですから」
対応にあたった文官は落ち着き払ってジョージに声をかけた。
上司のシド様からとにかくプライドが高く興奮しやすいので注意するようにと助言されていた。
聞いてた通りの高慢な態度にイラつくがこちらがキレては話にならない。
決して感情を表に出さずに笑顔で対応する。
「ジョージ様、この人きっとあなたの事を知らないのよ。本当に無礼な人よね、後できっちりとそれなりに罰を与えればいいのよ!だからここは大人しく言うことを聞いておきましょ」
隣にいたこの場にふさわしくないほど着飾った女性がジョージ王子をなだめた。
「エミリア…そうだな、貴様調子に乗ってるのも今のうちだ!全てがわかった時に俺の前に膝まつかせてやる!」
「はい、楽しみにしております。ではあちらの列にお並びください」
兵士に合図を送ると嫌そうにしながら頷き、元王子達を列へと誘導した。
「はぁ…面倒なのが来たもんだ。はい!次の人どうぞー」
俺は嫌なことは忘れようと次の人に笑顔で手招きした。
「ではこちらでお待ちください」
ジョージは色んな場所をたらい回しにされながらようやく狭い一室へと案内された。
馬小屋のような狭さだったが個室の椅子があるのでも今は助かる。
ここのところずっと歩き詰めの立ちっぱなしだったのだ。
部屋にあった一脚しかない椅子に腰かけようとすると・・・
「いたっ…」
最愛のレミリアから悲痛な声が漏れた。
「どうした!?」
慌てて駆け寄ると、レミリアが泣きそうな顔で見つめる。
「ジョージ、足が…歩き疲れて痛みが…ずっと立っていた事なんて初めてで…我慢してたんだけど」
大きな瞳に涙を溜めて足をさすっている。
本当は自分が座りたかった椅子だが…
「レミリア、ここに座って休むんだ」
自分の椅子を差し出した。
「いけません!それはジョージの…」
「俺は男だからまだ大丈夫だ。誰か来たら追加の椅子を頼んでやる」
「わかりました、では遠慮なく!」
レミリアはサッと立ち上がると椅子に腰掛けた。
俺は少しでも体を休めようと汚い壁に寄りかかる。
「それにしても大変な目にあった…父上や母上は大丈夫だろうか…」
「私のお父様もお母様も途中ではぐれてしまいました…もしかしたら捕まったのかも…」
「それなら尚更俺達は王族として生き延びねば!コスリガ国の血を絶やす訳にはいかない!」
「そうですね、まずは私達の身の安全を確保しないと…」
「この国なら軍事力も凄いからそうそう手出しはされないさ、それにロレッタがいるからな話をつけてもらおう」
「そうですね、可愛い妹がこんな目にあってるんですから手を差し伸べるのが家族ですよね」
「その通りだ!」
「よかった、なんにも役に立たないお姉様にこんな大役が…私の事が好きだから泣いて喜んで協力してくれますわ!きっとこの国でも一人で居場所もなく震えているでしょうから、私達をみたら喜んで駆け寄ってくるかも…」
レミリアが可愛くクスクスと笑う。
「確かにロレッタならそうかもな」
俺もクスッとつられて笑う、この国にきてようやく笑うことが出来た瞬間だった。
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