俺の事が好きな3人が、好きと言う気持ちを教えてくれるらしい

ジャンヌ

第1章 第1話【精神的疲労】

十月となり、一年三組も白咲学園に入学してから初めての学園祭の準備に取り掛かっていた。

「付き合ってみたい生徒選挙立候補するんだけどさ、彰人も一緒に立候補しない?」

「こう言うのは見た目がエントリー基準だって事を理解してから発言して欲しいんだけど。」

見た目に気を使ってない俺にとって、そんなのは地獄よりも地獄。

優愛とはもう十六年目の付き合いになるけど、こう言う考え無しの発言にはいつも不安になる。

「あーね、確かに彰人はイケメンじゃないもんね…私は見た目も中身も完璧だけど、彰人は中身だけだもんね…」

喜んでいいのかだめなのか、煽ってるのか素なのか。付き合いの長い俺でも優愛の考えてる事は分からない。

と言うか──

「優愛って頭悪いし家事できないし、服は脱ぎっぱなしだし気を使えないし。中身完璧にアウトだよな。」

一ヶ月前俺の家に泊まりに来た時に至っては、お風呂上がりにバスタオルを巻きもせずになんの恥じらいもなく俺の部屋に登場したほどのだらしなさ。

そんな優愛がエントリーするなんて、正直やめてほしい。こっちが恥ずかしくなる。

「彰人は知らないと思うけど、私めっちゃモテるんだよ?」

鼻息を荒くして分かりやすく怒ってるけど、覇気がないから大して怖くないし、ポコッと一発殴って来たけど肩を叩かれる方が衝撃は強いだろう。

「優愛を好きになるなんて、よっぽど騙されやすいんだな。」

「別に騙してる訳じゃないし!彰人以外の前でだらしないだなんて思わないでくれない?」

こう言うセリフってドキッとするのが定石なんだろうけど、あのだらしなさを他の人に見せてない事にホッとしてしまった。

俺が特別なんだ!とかではなく、常識が身に付いて良かったな!の方で。

「俺の前でだらしなく過ごすのもやめてほしいんだけど。」

「いいじゃん!私はストレスフリーだし、彰人はえっちな事する時の想像力が上がるし!」

「幼馴染の裸体なんて吐き気しかしないんだけど。」

「でもさ。実際、私のおっぱいってちょうどいい形で綺麗な形してない?」

「他のを知らな……と言うか優愛のも知らねぇよ!」

「ふーん、私のおっぱいが脳裏に焼き付いちゃってる感じかー。えっちぃー!」

「まじで、もう絶対家に入れない。」

「そんな事言っといて、入れてくれるんでしょ?彰人は優しいからね。じゃ、また後でー!」

優愛は嵐のように過ぎ去って行った。

鳥の鳴く声だけが響き渡る静寂の中、思考を巡らせる。

嫌でも海馬に深く刻み込まれるだろうが!まじでどうかしてる…なんであんなになんの恥じらいもなく話せるんだよ。まじでおかしいって!

その凄まじい衝撃から、前後の記憶がすっかり飛んでる事によって、より鮮明に優愛の優愛と優愛が顔を出してくる。

なんでそこの記憶は飛ばないんだよ!前後はどうでもいいから該当部分の全てを消してほしい……

脳内で愚痴を吐き続け、ようやく落ち着いた。

「あ、彰人君いた!」

思考が晴れたタイミングで、丁度よく俺を探していたらしき声が長い廊下に響いた。

振り向くと、一人の女子生徒が猛スピードでこちらに迫ってきていた。

「彰人君は生徒選挙出る?」

俺とぶつかる寸前で止まり、顔を極限まで近づけてそう聞いて来るのは、同じクラスの水瀬里帆だった。

「出ないけど、なんで?」

里帆とは高校生になってからの関わりだけど、同じ幼稚園出身だったと言う理由だけで頻繁に話しかけられたのもあってゲームで遊ぶくらいの仲にはなっていた。

「生徒選挙でキングとクイーンに選ばれたら、皆の前で好きな人に告白するんだって。言っちゃえば、告白された側は断るなんて事できなくなるんだよね。」

里帆が俺の周りを歩きながら落ち着いたトーンで話し始めた。

「だから、彰人君の好きな人誰なんだろうって気になっちゃって…彰人君って好きな人いる?」

走ってきた時から思ってたけど、今の里帆からはいつもの落ち着いた雰囲気が全く感じられなかった。

「熱でもある?連日準備で疲れてるとか?どっちにしろ休んだ方がいいんじゃ──」

「なんでそんな事言うの?」

俺の言葉を遮ってそう言う里帆だったけど、ギロリとした眼に恐怖を覚えた。

「私はいつも通りなのに…ただ、彰人君に好きな人がいるなら教えてほしいなって。それだけなの。」

里帆は瞬時に俯いてシュンとした表情を浮かべる。

明らかに様子がおかしいけど、こう言う時の対処法が分からなさすぎる。

「いないけど…」

「そうなんだ!良かった!」

里帆は突然、キラキラとした笑顔になる。

「生徒選挙は私の応援をしてくれるとありがたいよ。じゃあ、準備頑張ってね。」

そして、普段の落ち着いた雰囲気になった。

この日は、精神的疲労が溜まりすぎて家に帰ってすぐに寝てしまった。

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