第45話 炎の館に突入すると

アイゼンの目の前に壮絶そうぜつ光景こうけいが広がっていた。


それはどこまでも伸びる灼熱しゃくねつと化した赤煉瓦あかれんがで造られた城壁。


高温の中でも元気にほこる植物が植えられた庭園。


そして、燃えさかる敷地内にそびえる巨大で豪華な宮殿ような煉瓦造りの建物。


アイゼンの視界に入っている城壁も建物も庭園の植物すべてが真っ赤に色づき燃えあがっていた。


建物や城壁などが焦熱しょうねつと化していたが、敷地内の全てが燃えきることなく形をたもっていた。


そして、遠くではなれて見ているアイゼンの身に、燃え上がる建物から熱波がじわじわと届いて来ていた。


「これが炎のやかたダンジョンか。すごい景色だな。大火事だよ。熱すぎてこれ以上近づけないんだけど」


「そこまで高温ではないわ」


「人間では無理なの」


「そうね」


「どうやって中に入るの? もしかしてすべてが幻影げんえい?」


「いえ。実在してるわよ」


「そうだよね。入り口は?」


「あそこね」


ルナが指さした先に城門があった。


アイゼンとルナは城門に向かった。


アイゼンが城門の中をのぞくと敷地内しきちないには煉瓦造れんがづくりの建物がコの字型に立っており、広い中庭には庭園が広がっていた。


宮殿のような建物の壁には柱や彫刻ちょうこくなどがいくつもほどこされており、豪華に装飾そうしょくされていた。


また、庭園には植物が模様もようえがくように植えられており、その色とりどりの植物の中にはあざやかな赤い炎の花を咲かせているものもあった。


「この炎の館ダンジョンに入った人いるの?」


「ええ。水や氷属性の魔道具を準備していどむみたい。だけど長い時間の探索たんさくは出来ないようよ。だから今まで守護獣と戦った冒険者はいないみたい」


「そうなんだ。でも俺たち準備してないよ?」


「アイゼンの氷属性の魔槍や魔盾と私の白砂があるわ。それに魔力遮断まりょくしゃだんの白砂も」


「なるほどね。ってことは普通の冒険者は入口から近いところしか探索してないんだ」


「ええ。右か左の建物ね。だから他はまだ手が付けられていないわね」


「そうなんだ。手つかずのダンジョンか。貴重な魔道具を見つけられるかもね」


アイゼンは燃え盛る城壁を見た。


レンガ造りの城壁は灼熱になっており、所々火をいていた。


「レンガは山にある採石場から持ってきた火属性の石を使って建てられたのかな」


「でしょうね。普通のレンガは燃えないから」


アイゼンは城門の先に広がる庭園に目を向けた。


庭園には植物が規則正しく植えられており、石像がいくつも建てられていた。


そのすべてが高熱を放っていた。


「庭園の植物も火属性か」


「さまざまな植物を植えていくつもの幾何学模様きかがくもようを描いているわね」


「そうなんだ。上から見ないと分からないね」


「そうね。屋敷の上の階から眺める?」


「うん。行けたらね」


「どこの建物に行く? 火や熱対策は任せて」


「左の建物の中を通って正面の建物に行ってみようか。しかし大きな屋敷だね。何部屋あるんだろ。全部使ってるのかな」


「屋敷というより宮殿ね。倉庫とか使用人が住む部屋もあるんじゃないかしら」


「なるほど。そりゃそうか。んじゃ。出発しますかね。見た目は豪華な建物だけど、ただの建物じゃないんだろうな。見た目からして異常だし。ここはダンジョンだから常識は通用しないか」


「ええ。気を付けて行きましょう」


アイゼンは歩き出すと城門から少し離れたところに立ち止まった。


「どうすればいいの?」


「結界をって。結界に熱対策をほどこすから」


「なるほど。『結界』」


アイゼンは白砂の結界を展開した。


ルナが透明とうめいな結界にれた。


「歩いていいわよ」


「ありがとう。ん? 結界をったまま歩けるの?」


「ええ。足元にも結界が展開しているわ。アイゼンは結界の上を歩くことになる」


「へえ。そうなんだ。安心した。行こうか」


アイゼンとルナは城門に向かった。


「ん? ちょっと熱いな」


「魔力をびた熱を完全にはふせげないみたいね。無理そう?」


「いや。何とかえられるかな」


「そう。結界の組成そせいを変えてみるわ」


ルナはアイゼンの結界に再びれた。


「どう?」


「少し楽になったかな。ありがとう。進もうか」


「ええ。アイゼンの体調は常に監視かんしをしているけど、無理そうなら早めに行って」


「わかった」


アイゼンとルナは灼熱の城門の前に立った。


アイゼンとルナの目の前には燃え上がる城門と、その先に広がる炎の花や葉をもつ植物が植えられた庭園が広がっていた。


正面の建物の屋根には煙突えんとつがあり、そのそばに複数羽の鳥の魔獣が静かにたたずんでいた。


「燃えてる建物の屋根に鳥がいるよ。魔獣かな」


「コオノトリのようにみえるわ」


「そうなんだ。それにしてもダンジョン内はどこもかしこも燃えているな。結界内であぶり焼きになりそうだよ。そうだ。魔槍を使って見ようかな」


アイゼンは魔槍に魔力を少し流し込み能力を少し開放した。


魔槍から冷気をともなった風が発生し、結界内の空気をやした。


おかげでアイゼンは熱を感じなくなった。


「おお。すずしい。魔力の操作も上手くなってきたよ。入ろうか」


「ええ」


アイゼンとルナは燃え盛る城門をくぐった。


左側の建物に向かう地面には所々炎が燃え上がっていた。


アイゼンはゆっくりと灼熱の地面を歩いてみた。


「行けそうだ。建物に向おう」


アイゼンとルナは左側にある煉瓦造りの建物に向かった。


屋根の上にいる鳥の魔獣はアイゼンとルナに気付いているようだったが襲ってはこなかった。


アイゼンは数回ほど魔槍の能力を発動させながら灼熱の中を進んだ。


アイゼンとルナが灼熱の建物に向かうと入り口にドアはなく開けっぱなしだった。


「ドアは燃えきたのか。それともこわされたのかな。まあ、いいか。入ろう」


アイゼンとルナは建物の中に足をみ入れた。


その部屋は無残むざんあらされており、椅子いすやテーブルなどが倒れていたり、何かが破壊された破片が転がっていた。


部屋は広かったが、家具などの生活調度品せいかつちょうどひんが少なくなっているように思えた。


また、壁やゆか天井てんじょうは熱を持ち炎が発生している場所もあったが、げることなく綺麗きれいな状態をたもっていた。


「本当に冒険者が来てるみたいだね。それにしてもすごい景色だね。部屋とは思えないよ」


「そうね。冒険者ギルドネットワークにあった情報通り、冒険者はここまで来てるようね」


アイゼンとルナは次の部屋に向った。


建物内に廊下ろうかはなく、次の部屋があらわれた。


部屋の中はたなやテーブルなど豪華な調度品が置かれており、壁にはいくつもの絵画が飾られていた。


それらも燃えることなく高熱を放っていた。


「ここはあまり荒されてないのかな」


「そうね。何か有用な魔道具はありそう?」


アイゼンは部屋の中を見渡した。


「どうだろ。まずは建物中を探索たんさくしよう。魔道具を見つけたら帰り道に回収すればいい」


「そうね」


アイゼンとルナは次の部屋に向った。


アイゼンとルナは注意深く部屋の中を捜索そうさくしながら次々と部屋を通り過ぎて行った。


その中に石像やつぼ陶器とうきなど高価なものが置いてあり、天井にレリーフが飾られている部屋もあった。


「美術品が多いね。たなにいろいろ飾ってた」


「貴族らしい部屋ね。もうそろそろ正面の建物にたどり着くわ」


「うん。それにしてもここまで魔獣が出てきてないね。せまいからかな。灼熱の場所で生きられる魔獣はいないのかもしれないけど。食べ物もなさそうだし」


「魔獣については何も助言ができないわね」


「それは誰も出来ないんじゃないかな。ルナは魔獣が近くにいるかどうかだけ教えてくれたら助かるよ」


「ええ。それはまかせて」


するとアイゼンが部屋にある棚に飾られている鉄の仮面に目が引き寄せられた。


「ん? 魔力が強い仮面がある」


「それは面具ね。顔を守る防具」


「そうなんだ」


鉄製の面具は鼻から下をおおかくす防具で鼻の穴と口の部分に穴が開いていた。


「持って帰る?」


「うーん。装備できるのかな。熱くて装備できないとか」


「この灼熱の部屋の中では判断できないわね。外に持ち出してみましょう」


「そうだね。じゃあ、これ予約で」


「わかったわ」


その後もアイゼンは魔力を多く持つ魔道具を見つけると、ルナにお持ち帰りの予約をしていった。



アイゼンとルナはようやく正面の建物にたどり着いた。


そこは細長い広大な部屋だった。


庭園に面する壁側には、17組の巨大な窓が設置されていて中庭を鑑賞かんしょうすることが出来た。


壁際には大燭台おおしょくだいや燭台用テーブル、小型円卓などがいくつも設置されていた。


また、白い石像や金色の石像がいくつも立っていた。


さらに円形の天井には天井画がどこまでもえがかれていた。


天井画には翼の生えた人物やよろいを着て武器を持った精悍せいかんな人物などが描かれていた。


さらに天井には精巧せいこうで豪華なシャンデリアが絵と絵の間にいくつもられていた。


細長い部屋には中庭の反対側の壁にいくつもの部屋のとびらがあった。


アイゼンは真ん中の扉の奥から強大な魔力を感じた。


「真ん中の部屋におそらくしろがある。という事は守護獣もいるね」


「そう。入るの?」


「チラッと見てみようかな」


アイゼンとルナは精巧な彫り込み細工がほどこされている豪華な扉に向かった。


ルナが熱を持った扉を少し開け中をのぞき見た。


そこは寝室のようで巨大な天蓋付てんがいつきベッドが設置してあった。


広い部屋の奥の壁は一面鏡張りで、部屋にはいくつもの生活調度品や石像が置かれていた。


そして、豪華で大きな椅子には服を着たスケルトンが座っていた。


スケルトンは貴族のような豪奢ごうしゃな服を着ており、頭には王冠を乗せていた。


また、手には大きな宝石の付いた短杖たんじょうにぎりしめていた。


ルナは扉をそっとめた。


「貴族のスケルトンがいたわ。依り代は分からない」


「一体だけ?」


「ええ。見る限り一体だけだった。私が感知できないだけかもしれないけど」


「そうか。広さは?」


「かなり広いわ」


「そうなんだ。一体なら戦ってみるか。まだ魔盾の魔法も使ってないし」


「わかったわ」


ルナが灼熱の扉を開け開け、アイゼンとルナは室内に足を踏み入れた。


アイゼンとルナが部屋に入った瞬間、椅子に座る貴族スケルトンの背後にある鏡の壁から無数のゴーストがき出て来た。


ゴーストの体は半透明で炎をまとっていた。


「っ!? 魔法を発動するっ。ルナは攻撃を」


「わかった」


ルナが体内から魔力遮断の白砂で作った刀を取り出した。


すると椅子に座っていた貴族スケルトンが立ちあがり、短杖をかかげると魔法を発現させた。


アイゼンたちと貴族スケルトンとの間に無数のアンデッドが召喚しょうかんされた。


アンデッドは人型スケルトンで骨が真っ赤に燃えており、手には剣が握られていた。


「っ!? 多すぎだろっ」


アイゼンは魔法の詠唱えいしょうに入った。


「『君臨くんりんする者。灼熱しゃくねつから守護しゅごし、閃光せんこうさえさえぎる者。すべてが燃え上がる大地。そのすべてをてつかせる盾』」


広い室内に猛吹雪もうふぶきが吹き荒れアンデッドたちとルナを飲み込んだ。


ルナは吹雪の中、スケルトンやゴーストを白砂の刀で切りせていった。


ルナが持つ魔力遮断の刀の威力いりょく抜群ばつぐんで、ゴーストは一撃で消滅しょうめつし、スケルトンの骨はくだっていた。


吹雪がむと氷柱が3つ出現し、すぐにくだけ散り爆散ばくさんした。


氷の塊が周囲に飛び散り、スケルトンとルナに襲い掛かった。


ルナは氷の塊を回避しながらスケルトンやゴーストを刀でほふっていた。


ただ、守護獣である貴族スケルトンには氷の塊は全くとどいていなかった。


氷の塊が貴族スケルトンに届く前に高熱で水に変えれられていた。


「っ!? 守護獣にはかないか。火属性のダンジョンだと効果がうすいのかな」


再び貴族スケルトンが短杖をかかげた。


すると今度は動物のスケルトンを無数に召喚した。


オオカミ、イノシシ、シカ、クマ、オオヤマネコなどのスケルトンがアイゼンに視線を向けた。


「っ!? 何回召喚するんだよっ」


ゴーストと人型スケルトンの方はルナがほとんど倒していた。


ルナがすぐにアイゼンの前に戻ってきた。


貴族スケルトンが再び短杖を掲げた。


「今度は何っ」


貴族スケルトンの周囲に火の玉が無数に現れると、すぐに無数の火の玉がアイゼンに向かって射出された。


同時に動物型スケルトンがアイゼンとルナに襲いかかってきた。


「っ!?」


ルナはアイゼンを瞬時に抱えると扉に向かった。


今までアイゼンがいた場所に無数の火の玉が着弾した。


ルナは扉を破壊し部屋の外に出た。


ルナはアイゼンを抱えたまま全力で走り出した。


退却たいきゃくするわ」


「わかった」


アイゼンが後ろを見ると動物型スケルトンが追いかけて来ていた。


追手おってが来てる」


「わかってる」


ルナは来た道を全力で戻りながらアイゼンが予約していた魔道具をいくつか回収していった。


アイゼンとルナは何とか動物型スケルトンの追撃ついげきをかわし、城門の外に出ることができた。


動物型スケルトンは建物の外までは追ってこなかった。


ルナはかかえていたアイゼンを地面にろした。


「ふう。いやー。危なかったね」


「そうね。範囲攻撃や複数の相手による同時攻撃はまだ対処たいしょできないわね。でも魔力遮断まりょくしゃだんの白砂で作った刀の効果が確認できてよかったわ」


「そうだね。結局、依り代は確認できなかったな」


アイゼンは地面に座り込んだ。


「どうぞ」


すると、ルナが建物から持ち出した3つの魔道具をアイゼンのそばに置いた。


アイゼンの前に置かれた魔道具は鉄製の面具とガラスの水差しとふたのある陶器の壺だった。


「ああ。逃げながら持って帰ってくれたんだね。ありがとう」


「逃走路にあった道具だけになったわ」


「十分だよ」


アイゼンは面具を指の先でつついた。


「熱くなさそうだね」


「ええ。すべて安全よ。敷地の外に出たら温度が下がったわ」


「そうなんだ。よかった」


アイゼンは面具を手に取り顔に装着そうちゃくした。


アイゼンの鼻から下が面具におおわれた。


「どう? 格好かっこういい?」


「ええ」


「何か能力が付与されてたりするのかな」


アイゼンは面具に魔力を流してみた。


すると面具がほのかに熱を帯びた。


あたたかい。さすがにこれだけじゃないよね。でも効果が分かんないな」


次にアイゼンは陶器のふたを開け、魔力を流した。


すると壺の中から熱気が大量にあふれて来た。


暖房器具だんぼうきぐかな。冬でも快適かいてきだね。それとも食べ物を温める壺なのだろうか。分かんないな。最後。これ水差しだよね」


「おそらく」


ガラス製の水差しには金で造られた猛禽類もうきんるいあしが付いていた。


アイゼンはガラスの容器の水差し中に、魔道具の水袋から水を入れた。


アイゼンが猛禽類の脚を持ちコップにそそぐとお湯になって出てきた。


「いいね。温かい飲み物がいつでも飲めるよ」


「その程度なら私も出来るわ。わざわざ道具を持ち歩かなくてもいいわよ」


「そ、そうだね。飲み物でルナの手をわずらわせることより、もっと重要なことをルナにやってもらった方がいいかな」


「そうね」


「さて。一休みしてアルケド王国に帰ろう」


「わかった。このままアルケド王国に向かうと、王国の南東部に着くことになるわ」


「うん。それでいいよ」


アイゼンとルナは炎のやかたの前で休息きゅうそくを取り、アルケド王国に向かった。

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