第16話 キス マイ アス2
「いやだ! ボクも天吹君と一緒にいたい! 真姫君はよくてボクはだめなんてズルいじゃないか! 差別だ! イジメだ! PTAに抗議してやる!」
半泣きになって駄々をこねるアリエッティには天才の面影など欠片もない。
「なら下僕もクビです。二人仲良く消えてください」
「んな!? それはないっすよ姐御!?」
「仕方ありません。この女がわがままを言うんですから。こんな事を許していたら収拾がつかなくなります。この辺りが潮時でしょう」
「そんなぁ~! おいアリー! お前のせいだぞ!」
「ボクは悪くない! 大体、先に抜け駆けしたのは真姫君の方じゃないか!」
真姫がアリエッティの胸倉を掴む。
これでは喧嘩だ。琥珀は焦る。
二人とも、変わっているが悪い子じゃない。むしろいい子だ。可愛いし話していると面白い。自分に好意を持ってくれているし、悲しい想いはさせたくない。
でも、モナカの言う事も正しい。彼氏なら、彼女を一番に考えるべきだ。罪悪感で胸が苦しいが、ここは余計な事を言うべきではない。
ギュッと拳を握って耐えていると、アリエッティが泣きついてきた。
「天吹君! 助けてくれ! 彼女にしろとは言わない! 時々ちょっと一緒にいさせてくれればそれでいい! 君はボクの心のオアシスなんだ!」
「オレからもお願いします! 絶対迷惑かけないんで、姐御の下僕でいさせてください! この通りっす!」
真姫は土下座まで始めてしまった。
こうなるともう無視する事なんかできない。
だってこんなに可愛い女の子二人に泣きつかれているのだ。
無視できる男なんか以下略だ!
「も、モナカちゃん……。その……」
上目遣いで見ると、モナカは「うっ」っと呻き、パンパンと自分の頬を叩いて目を細めた。
「彼女とこいつら、どっちが大事なんですか」
「それは勿論モナカちゃんだよ! でも……」
「琥珀君が優しい人なのは分かります。それでこいつらに情が湧いたんでしょう。でも、私の気持ちにもなって下さい。私はこの通り変な女ですし、こいつらに比べてずば抜けて可愛いというわけでもありません。精々ちょっと可愛いくらいです」
「姐御?」
「異議あり!」
ダブル拳骨でモナカが黙らせる。
「この通り、暴力的で可愛げのない女ですし。琥珀君の周りに別の女がいたら取られるんじゃないかと心配になります。こんな気持ちになったのは初めてですが、正直結構辛いです」
モナカは顔を赤らめると、唇を尖らせて言った。
琥珀の胸はキュンキュンした。そしてものすごくエッチな気分になった。
この女、可愛すぎる! ピシャッ! っと雷が落ちた気分だ。
「僕はモナカちゃん一筋だよ! 絶対浮気なんかしないから!」
気が付くと琥珀はモナカの手を握っていた。
机を障子みたいに打ち抜いた癖に、もちもちと柔らかい可愛い手だ。
いつもは眠そうなモナカの目がぐわっと開き、顔の赤みが増す。
「く、口で言うのは簡単ですけど……」
モナカの目が恥ずかしそうに斜めを向いた。
「だから、態度で示すよ。これは僕のわがままだから。モナカちゃんのお願い、なんだって聞くよ。モナカちゃんの気が済むまで、幾らでも。だから、二人を追い出さないであげて。毎日なんて言わないから。モナカちゃんが許せる範囲で一緒にいさせてあげて。それに……こんな事言うのはズルいかもしれないけど、半田さん達と喋ってると、僕も友達が出来たみたいで楽しかったし。モナカちゃんも、友達がいた方がいいと思うから……」
モナカと二人の時間は楽しいけれど、それだけというのは不健全な気がした。自分のせいでモナカまでボッチになってしまうのは嫌だ。それに琥珀も、友達には憧れがある。
「姐御ぉ~……」
「頼むよモナカ君。この天才が頭を下げようじゃないか」
三人で捨て犬のようにモナカを見つめる。
モナカはしばらくムッスリして、大きなため息を吐いた。
「そこまでされて断ったら、私が心の狭い束縛彼女みたいになってしまうじゃないですか。琥珀君は男子に嫌われていて同性の友達を作るのは絶望的ですし。仕方ありません。妥協しましょう」
「モナカちゃん!」
「姐御!」
「モナカ君!」
琥珀がギュッと手を握り、真姫とアリエッティが抱きついた。
「寄るな鬱陶しい」
そちらは拳骨と頭突きで黙らせて。
「でも、いいんですか。なんでもなんて言っちゃって。それこそ、お尻の穴を舐めろとか言うかもしれませんよ」
試すように告げるモナカに、琥珀は力強く断言した。
「モナカちゃんのお尻の穴なら大歓迎だよ!」
†
「うぎぎぎ……出て行きそびれましたわ……」
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