第2話 間違いの始まり
ある日の放課後、琥珀は苺ちゃんと一緒に文ちゃんの家に遊びに行き、三人で楽しくゲームをしていた。
「ねぇ琥珀君。文ちゃんに内緒で、サプライズのお誕生会を開かない?」
文ちゃんがトイレに立つと、急に苺ちゃんが近づいてきて、耳元で囁いた。
温かな吐息に耳を擽られ、琥珀はドキッとした。
苺ちゃんからは、苺みたいな甘い香りがした。
そんな風に感じてしまった自分を叱りつつ、文ちゃんがいなんだから普通に喋ればいいのにと琥珀は思った。
「……それはいい考えだと思うけど」
断る理由はない。文ちゃんにはいつもお世話になっているから、なにか恩返しがしたいと思っていた。
「じゃあ、次の日曜日に一緒に買い出ししようよ。駅前に十時集合で」
「……でも、二人っきりは――」
よくないんじゃないかな。
言い終わる前に文ちゃんが帰ってきた。
「もどり~っと。おい琥珀、俺がいない間に苺に変な事しなかっただろうな?」
「そ、そんなわけないだろ!?」
心臓がキュッとなって、琥珀は慌てて否定した。
さっきまでそばにいた苺ちゃんは、いつの間にか元の位置に戻っている。
「じょ、冗談だよ。そんなに怒る事ないだろ?」
困惑する文ちゃんの後ろで、苺ちゃんが悪戯っぽく片目を閉じた。
†
どうするべきか琥珀は悩んだ。
やましい事はないにしても、文ちゃんに内緒で苺ちゃんと二人っきりで出かけるのは良くないんじゃないだろうか。
一方で、そんな風に考える事自体、自分が苺ちゃんをそういう目で見てしまっているみたいでよくない気がする。
大体、なんと言って断ればいいのか。
二人で出かけたら文ちゃんを勘違いさせちゃうかもしれないよ?
イケメンの自分がそんな事を言ったら、ものすごく嫌味だ。文ちゃんに対しても失礼だし、苺ちゃんだって気を悪くするかもしれない。
なに? 二人で出かけたら私が琥珀君を好きになるとでも思ってるの?
勘違いしないでちょうだい!
そんな事になったら、文ちゃんにだって嫌われる。
それに、苺ちゃんは文ちゃんにべったりだから、話し合う機会もなかった。こんな事を相談できるような友達もいない。悶々としている内に当日になってしまい、結局琥珀は約束通り駅前に向かった。
「……えっと、苺ちゃん? なんか、いつもと違うくない?」
待っていた苺ちゃんは、普段三人で遊ぶ時とは別人のような姿をしていた。
メイクはばっちりで、肩を出したセクシーな服を着ている。
中学生なのに、大人の女の人みたいだ。
「だって文ちゃん、こういうの嫌がるんだもん。こんな時くらいじゃないと着れないし、ついでにお洒落しちゃった。琥珀君が一緒ならナンパされる心配もないしね」
あくまでも、苺ちゃんはお洒落を楽しみたかっただけという態度だが。
こんな所を文ちゃんに見つかったら絶対に誤解される。
かといって今更帰るわけにもいかない。
「……それじゃあ、早く済ませちゃおう」
こうなったら、出来るだけ早く用事を終わらせるしかない。
琥珀は急いでショッピングモールに向かった。
「あ、この服可愛い。ちょっと見てもいい?」
「……いや、でも、今日の用事は文ちゃんのサプライズパーティーの準備だし……」
「だから、当日着るお洋服を選びたいの。折角だし、可愛い恰好でお祝いしてあげたいでしょ?」
そう言われると言い返せない。
罪悪感でハラハラしながら、琥珀は洋服選びに付き合った。
「じゃじゃ~ん。どうかな?」
「そ、そういうのはちょっと、中学生にはまだ早いんじゃないかな……」
なにを考えているのか、苺ちゃんはやたらと露出度の高い服を選んでくる。
「もう! 琥珀君、イケメンの癖に初心すぎ。今時の中学生ならこれくらい普通だよ。文ちゃんも全然手を出してこないし。私はずっと待ってるんだから。なので琥珀君には、文ちゃんを誘惑出来そうな戦闘服選びを手伝って貰います」
「ぼ、僕には無理だよ!?」
「次はこっちを着てみようかな~」
「まだ着替えないで!? カーテン閉めて!?」
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