転機と応援 [side 文彦]
[side 文彦]
姫井さんとのデートを楽しみにしていた俺は、いつになく上機嫌で仕事をしていた。
(姫井さんと会うのは、明後日か……。どんな服を着ていこうか……)
俺はウキウキしながら考えていた。すると突然、上司の神田さんから声をかけられた。
「おい!星野!ちょっといいか?」
「はい!何ですか?」
俺は慌てて答える。
「お前は、最近よく頑張ってるじゃないか。そこでだ……。本社の方に転勤しないか?」
「え……?」
俺は思わず固まってしまう。
「どうなんだ?行きたいのか?嫌なのか?」
「いや……。その……。急な話でしたので、少し考えさせてください」
「わかった……。考えておいてくれ」
そう言って、神田さんは去って行った。
俺は席に戻ると、頭を抱えてしまった。
自分が評価されたのは嬉しかったが、まさか本社への転勤の話が来るとは思わなかったからだ。
(どうしよう……。せっかく姫井さんと付き合えたのに……。離れたくないなぁ……)
そんなことを考えながら、机に突っ伏した。……しかし、このことは彼女にも伝えた方が良いだろう。
(姫井さんと次に会うのは、デートの日か……。その時に話すしかないよなぁ……。はぁ……。気が重いなぁ……)
……俺は憂鬱な気分になりつつも仕事に戻った。
***
そして、約束していた土曜日が来てしまった。
俺は待ち合わせ場所の駅前で、ソワソワと落ち着かない気分で待っていた。
「星野さん!こんにちは」
突然、後ろから姫井さんの声が聞こえたので振り返ると、そこには可愛らしい私服姿の彼女が立っていた。
「あ!姫井さん……。こんにちは……」
俺も挨拶を返そうとしたのだが、緊張してしまい上手く喋れなかった。
「ふふ……。今日はよろしくお願いしますね。とりあえず、どこかのお店に入りましょうか」
「そ、そうですね……。それじゃあ、近くの喫茶店にしましょうか」
俺と姫井さんは、近くにある小さなカフェに入った。俺はコーヒーとケーキのセットを頼み、姫井さんは紅茶とスコーンのセットを頼んだ。
「……美味しいですね」
姫井さんは幸せそうに食べていた。……そんな彼女を見ながら、俺は話を切り出した。
「えっと……。姫井さん、今日は相談したいことがありまして……」
彼女はフォークを動かす手を止めて、こちらを見る。
「はい……。どうかしましたか……?」
「実はですね……。先日、会社の方から転勤の話が来てまして……」
俺の言葉に、彼女は驚いた様子だった。
「そうだったんですか……。それで、星野さんはどちらへ行かれる予定なんでしょうか……?」
俺は、どう伝えるべきか悩んでしまった。本社がある
だから、姫井さんとは簡単に会えない距離になってしまうのだ。
そのことを彼女に告げるのは辛い……。
「えっと……。ここからだと、かなり遠いところなんです……。なので、しばらく姫井さんには会いに行けなくなってしまいまして……」
「……そうなんですね」
姫井さんは悲しそうな表情を浮かべていた。……俺だって、できることなら姫井さんと離れたくはない。
だが、彼女は笑顔で答えてくれた。
「大丈夫ですよ。お仕事なら、仕方ありませんもの……。それに、星野さんが評価されたのは嬉しいですし……」
「……すみません」
俺は申し訳なさでいっぱいになっていた。
すると、姫井さんは優しい口調で言う。
「謝らないでください……。私なら平気ですから……。でも……。メッセージのやりとりは続けても良いですか……?それなら寂しくないですし……」
「もちろんです!」
俺は即答する。すると、姫井さんは安心したように笑っていた。
「ふふ……。良かった……。それなら、また連絡させていただきますね……」
「はい……。いつでも待ってます!」
……それから俺たちは、他愛もない話をした。
そして、夕方になると姫井さんは帰っていった。
俺は1人になった後、改めて転勤のことを考える。
(姫井さんとは、もうすぐ離れることになるんだよな……。でも、彼女も応援してくれたし……頑張ろう!)
そう自分に言い聞かせて、自分を奮い立たせた。
……そして、決意を新たにしたのだった―――。
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