繋がる気持ち [side 文彦]

[side 文彦]


 昼休み。俺は少しソワソワしながら『セボン』に向かっていた。


(姫井さんは、もう来てくれてるかな……)



 今日は姫井さんと会う約束をしているのだが、まだ彼女は来ていないようだ。


(早く来てほしいような、そうでないような……)


 俺は複雑な気持ちになった。するとその時、姫井さんがやってきた。


「あ!すみません……遅くなりました……」


 彼女は少し慌てながら、俺に謝罪をした。


「い、いえ……。大丈夫ですよ」


 俺はそう言って、彼女を安心させた。……内心はドキドキしていたが。



「……あの、話って何ですか……?」


 姫井さんが尋ねてきた。俺は少し迷ったが、勇気を出して言った。


「えっと……。姫井さんは俺のことをどう思ってるか聞きたくて……」


「えっ!?……ど、どういう意味ですか?」


 姫井さんは驚いたように言った。……俺は慌てて説明する。


「あ、えっと……!その……。俺は姫井さんのことが好きなんですけど、姫井さんは俺のことを好きかどうかが知りたいんです……。わかりやすく言うと、お付き合いさせていただけたら、なんて……」


 俺は恥ずかしさに耐えきれず、下を向いてしまった。


(うぅ……。めちゃくちゃ緊張してきた……)


 俺はドキドキしながら姫井さんの言葉を待つ。……すると彼女は驚いたような声で言った。



「星野さん、私のことを好きだったんですか……?」


 俺は顔を上げて答える。


「は、はい……」


 彼女は頬を赤らめて下を向いた。そして小さな声で言う。


「私も……好きです」


「……!ひ、姫井さん……!」


 俺は嬉しくて、思わず彼女の名前を呼んだ。……彼女はさらに顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言葉を続けた。


「わ、私も星野さんのことがずっと前から気になっていて……!それでこの間、つい言ってしまったんですよ……」


 俺は彼女の言葉を黙って聞いていた。そして彼女はさらに続ける。


「だから……その……これからよろしくお願いします」


「はい……。こちらこそ」


 2人で微笑み合う。

 ……なんだかくすぐったい気分だ。


「えっと……それでは、このあたりで……」


 俺はそう言って立ち去ろうとしたところ、姫井さんが俺の腕を掴んだ。



「あ!ま、待ってください!」


「えっ……?どうかしました……?」


 俺は少し戸惑った。すると姫井さんは、少し迷った後に口を開いた。


「その……。今日、仕事が終わったら、一緒に帰りませんか……?」


 俺は一瞬、何を言われたのかわからず固まってしまった。……しかし、その意味を理解すると、俺は慌てて答えた。


「えっ……!そ、それは嬉しいんですけど……。いいんですか?」


「はい……。私も星野さんと、もっと一緒に話したいので……」


 彼女はそう言って、照れくさそうに笑った。


「そ、そうですね……。わかりました。それじゃあ仕事が終わった後に、待ち合わせをしましょう!」


 俺も笑顔になって答えた。


「………はいっ!」


 姫井さんはそう言うと、小さく手を振って去っていった。



(まさか、姫井さんと付き合える日が来るとはなぁ……)


 俺はそんなことを考えながら、午後の仕事に取りかかったのだった。


 そして夕方になり、仕事を終えた俺は『セボン』の前で姫井さんを待っていた。


(姫井さん、遅いな……。何かあったんだろうか?)


 ……そう思った時、姫井さんの姿が見えた。そして彼女が小走りで駆け寄ってくると、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんなさい……。待たせてしまいまして」


「いえいえ……。全然大丈夫ですよ」


 俺はそう言いつつ、彼女に笑顔を向けた。

 すると、彼女はほっとした様子を見せた後、続けて話し始めた。


「駅までで、良いですよね……?行きましょうか……」


「はい……」


 そうして、2人並んで歩き始める。……なんだか緊張してしまう。



 しばらく歩いていると、姫井さんは突然、俺の手を握ってきた。


「ふぇ……!?」


 あまりにも唐突だったので、変な声が出てしまった。


「あっ……。いきなり手を握るのは、失礼でしたかね……?」


 姫井さんは申し訳無さそうな表情で聞いてくる。


「あ、いえ!そんなことないです!むしろ大歓迎というかなんと言うか……!!」


 焦りすぎて、変なことを言い出してしまった……。


「……良かったです。それならこのままでも良いでしょうか……?」


「はい!もちろんです……!」


 俺はそう返事をして、握り返した。……それから駅に着くまでの間、俺たちは一言も喋らなかった。



(なんか緊張する……。でも、すごく幸せかも……)


 そう思うと同時に、駅まで到着した。そして、俺たちはそこで別れた。



 俺は電車に乗ってからも、しばらくの間、彼女と繋いでいた右手を見つめていたのだった―――。

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