犬神様は半身を探してる

@hanazanmai

第1話 プロローグ

真ん中に錆び付いた手すりがある、長い石階段を登ると、海が見渡せる猫の額ほどの広場に出る


その一角に小さな祠があって、祖母は、80歳で亡くなる半年前まで、毎朝その長い階段を登って、祠にお供えをしていた


お供え物に制限はなく、昨晩の夕飯の残りとか、作りすぎた弁当のおかずとか、腐りかけのタラコとか、とにかくなんでもよかった






半年前、祖母は畑でイノシシに襲われて怪我をした


幸い命に別状はなかったが、腰の骨を折っていて、しばらく入院することになり、入院している間に気落ちしてしまい、そのまま死んでしまった




【しゅんた、ばあちゃんがいないときは、おまえがイヌガミ様にゴハンを差し上げるんだよ】


そう、事あるごとに言われてきたが、祖母は近所の人や兄弟から旅行に誘われても決して家を1日以上空けることはなく、駿太の出番も当然なかった


だから、すっかり忘れていた


イノシシに襲われて運ばれた病院で、点滴をつけて眠る祖母の顔を見るまでは


その翌日から、駿太は毎日長い階段を登っている

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