第19話 1限の君、2限の私【三人称】
【お知らせ】
いつもご覧くださり、誠にありがとうございます。
試みとして、この第19話と前回の第18話は三人称で書きたいと思います。
第20話以降はこれまで通り、一人称で進めるつもりです。
【
1時間目が終わる。そのチャイムを号砲に、相良は教室を出、まっすぐに1組へと向かった。目的は言うまでもなく、忘れた英語の参考書だ。
月曜日の1時間目から体育という悲劇の1組は、グラウンドから戻ってきた体操着の生徒でごったがえしていた。着替えをしにトイレへ向かう人、自販機に向かう人、ボディシートで体を拭く人から、もう着替えて平然としている人までいる。
そのなかで、ひときわ異彩を放つ男子生徒を見つけ、相良は安堵した。ちょうど教室のドアにいちばん近い席で、今まさに制服に着替え終わった彼が頼みの綱だった。
ドアから少しだけ身を乗り出し、男子生徒に声をかける。堂々と他クラスの教室に足を踏み入れる勇気は、相良にはない。
「斉藤」
男子生徒は声にすぐ顔を上げ、目を落としていたスマホのゲーム画面を机の下に隠した。数秒、相良の顔をまじまじと見つめたのち、ややあってから、
「相良」
と、合点したようにつぶやく。相良はスカートのポケットから100円を取り出し、彼の筆箱の横に置いた。そのまま両手を合わせ、拝む。行動だけ見れば、もはや神社への参拝である。
「お願い。サンクエ貸して」
相良の頼みに、斉藤は無言でサンクエ……もとい英語の参考書を渡すことで応える。彼は100円玉を緩慢な手つきで財布に入れると、無表情のまま親指を立てた。
「ありがと。終わったらすぐ返すから」
相良は言うと、ずっしりとした重みのサンクエを小脇に抱え、教室に戻るべく廊下を走る。斉藤はその後ろ姿を見ることなく、スマホを再び取り出した。
【
「散々だよぉ~!」
相良が参考書を借りに奔走している頃、小川は教室でクラスメイトに泣きついていた。去年、彼女と同じクラスだった者は思う。ああ、またか、と。
泣きべそをかく小川に抱きつかれ、困ったように微笑むのは8組の委員長だ。
「予習はしなくてもいいけど、復習はちゃんとしなきゃだよ」
「わかってるけどぉ」
委員長は小川の頭を撫でると、しれっと小川の腕をふりほどき、教室を出て行く。それと入れ違いになるように、相良の姿が教室のドア前方に見えたとき、小川は目を輝かせた。が、それも一瞬で、すぐに相良は
「はい、おはようございます」
と、挨拶をしながら教室に入ってくる英語教師を横目に、小川は再び机に突っ伏した。小川の去年の成績は、オール赤点に王手をかける直前。
「あ、こら。惰眠の赤坂に、ミス小川がいるじゃないの」
授業中に当てられたら、必ず答えを間違える。小テストは毎回0点。その様子から、小川は「ミス小川」と呼ばれていた。
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