ひとりてんき

鯖缶/東雲ひかさ

ひとりてんき

 私は晴れが嫌い。

 陽気にほだされた人々がようもなく外をうろついている。私は人とすれ違うのが苦手だ。

 陽射しが私を照らして、それが強ければ強いほど私の

 影を濃く落とす。それが辛い。

 それでも干したお布団に包まれるのは好きだ。

 私は雨が好き。

 雨に濡れるのが嫌な人々は陰気になって外に出なくなる。人とすれ違うのも傘が身代わりになってくれる。

 痛いほどの雨は嫌だけれど小雨や霧雨はほどよく色んなものと距離を空けてくれる。それが心地よい。

 それでも雨の日に匂う土の匂いはまだ慣れない。

 私は曇りも好き。

 薄暗くもあるけれど困らないくらいの明るさが見えなくていいものを隠してくれているようで穏やかでいられる。

 気温も落ち着いて過ごしやすい。犬の散歩も人が少なくてしやすい。

 意外と曇りが一番好きかもしれない。

 私は雪が少し好き。

 外に出るには雨の日と違い、寒くて私も尻込みする。

 カーテンを開いたとき雪の白に照り返して目に入る陽射しも苦手だ。

 それでも誰も足を踏み入れていない純白の雪の絨毯をぐちゃぐちゃにしていくのは、私がここに居るのを教えてくれているようで、それが少し楽しい。

 私は春は嫌い。

 花粉症だからだ。

 私は梅雨は好き。

 雨音に囲まれて眠るのはとても落ち着く。

 でも台風や雷は怖い。

 私は夏は嫌い。

 暑いからだ。それに近くの田んぼのカエルたちの合唱を毎夜聞かされて眠るのは至難の業だ。

 私は秋は好き。

 落ち着いた気候が私をも落ち着かせてくれる。

 枯れ葉を踏むのも好きだ。

 パリパリと鳴らすのはあまり飽きない。

 落ち葉焚きの煙が上がっているのを見るとより秋だなと感じる。

 私は冬は嫌い。

 寒いのは辛い。

 でも雪が少し好きなのだ。

 私は朝は嫌い。

 空が紫から藍になって紅くなっていく。

 そうやって毎日が始まるカウントダウンをされているようでそれが辛い。

 その様子が美しい分、質が悪い。

 私は昼は嫌い。

 毎日の真っ最中で私は日常を暮らしている。

 日常に不満があってもなくても何となく憂鬱な時間帯。

 昼の空気感も苦手だ。人の活動を空気から肌に感じる。

 自分以外の人間を日常の中で過度に感じてしまう。

 何となく圧迫感がある。

 私は夜が好き。

 毎日を終えて家に帰る。

 その場所は他の誰でもない私だけの場所。

 誰も干渉出来ない鉄壁要塞のよう。

 少し寂しくなることもある。

 でもそれも夜の醍醐味だ。

 何となく気が大きくなって夜の町を駆けだしてみる。

 外灯の明かりで月が霞む。

 鳴り響くのは私の足音だけ。

 人の影は一切見えない。

 世界に私一人だけのよう。

 それで寂しくなることはない。

 意味もなくウキウキしてきてしまう。

 たまにいる同業者に出くわして私は現実に引き戻される。

 出くわさなくも朝の陽射しが引き戻してくれる。

 私は巡っている。

 天気を。

 季節を。

 二十四時間を。

 ひとつ残らず感じ取って巡っている。




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