テレビのお客様
「ええ、はい、私はとうの昔にその役割を終えております。
例え修理をしたとしても、大して役立つことはないでしょう」
その日出会ったその人の頭には
いわゆるブラウン管テレビが鎮座していた
どっしりと厚みと大きさがありながら
しかしモニターは小さく丸く
もし映像が映るとしても
モノクロなのかもしれなかった
「でも何と申しますか、
少々変わった方も世の中いらっしゃいまして、
ええ、今はこうして過ごしております」
そういう彼の頭の中は
精密部品の代わりに小さな花が鎮座している
むろん本物の花である
少し離れた私の席まで
ほんのり青い香りがする
花瓶として生きるのも悪くない、と彼は言った
私は家にある液晶テレビを思い出す
いつかあのテレビが
その役目を終えるとき
果たして次の生はあるのだろうか
小さなテレビが
額縁や
テーブルに
変身するのを想像しながら
珈琲に口をつける
ゆっくりと夜は更けていく
無機物たちも輪廻する
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