塔の住人たち-Ⅳ

 州都市部、高層ビルの一角にあるヨシュア・キンドリーの執務室。


 珍しく執務机の椅子に腰かけたヨシュアが恍惚とした表情を浮かべていた。机の下で忙しく働く7セブンに身体を預け、天井を見上げる。


 もう1時間は奉仕してもらっているだろうか。

 いい加減、ふやけてきそうだ。


 ヨシュアは天井を見つめながら、あからさまに飽き始めていた。


 どれだけ媚びた快楽を提供された所で、思い浮かぶのはあの瞳。凌辱りょうじょくにも最後まで屈服する事のなかった褐色の肌だ。あれほどの上物は当面、現れないだろう。


 ため息をついたヨシュアは、ひざまづいて仕事に励んでいる7セブンへ声を掛けた。


「……7セブン、もう一度顔を見せてごらん」


「はい」


「ふん……前よりは良い男になったんじゃないか? そのケロイド、似合ってるよ」


 ヨシュアのためだけにしつらえた革靴が7セブンの輪郭をなぞってゆく。7セブンはあの爆破の後、ビルが崩壊する直前に現場から脱出する事に成功していた。ただし、もろに喰らった爆破の影響で顔の半分はケロイドになっていた。


 それでも目立った外傷がその程度に収まったのは、7セブンが持つ身体能力の高さに尽きる。

 

「貴方様からそのように仰って頂けるとは。私の全ては貴方の物です、


「ふうん、そう。あ、そういえば君さ。死神の顔を私だと言いながら潰してたそうじゃないか」


「あの……それはその……」

 

 革靴のつま先が7セブンあごを捉えた。見下すヨシュアの瞳は凍てつく氷そのものだ。7セブンは、恐怖にその身を震わせながら下半身を熱くしていた。

 

「私はね、犬が嫌いなんだ。臭くてかなわない。けれども、狂犬は別だ。言ってる意味が分かるかい? 7セブン。君は一体どっちなんだ」


 言葉の意味を理解出来ない7セブンの耳元に、ヨシュアが顔を近づけた。今にも触れてしまいそうな……しかし決して触れる事のない唇からささやきがれてくる。


「君のボスは狂犬だったよ。実に素晴らしい鳴き声を聞かせてくれた――一生、飼い殺しにしてやりたいくらいのね。私にそこまで思わせたんだ。すごい事だと思わないか?」


 火傷さえなければ上背のある美青年として街に溶け込み、ガールハントでもしていそうな容姿をした7セブン。その顔がみるみるウチにいびつなものへと変貌へんぼうを遂げていった。顔色に至ってはケロイドも手伝って赤黒く染まっている。


 7セブンはカインへの凄まじい嫉妬で、目の前に座るヨシュアを今にも殺してしまいそうだった。膝元で祈るように手を組み、懇願こんがんする。


「カインなんてあんな男……貴方には似合いません。止めてください、。死神の首が欲しかったのは事実です。貴方に似ていたから飾っておきたかった」


「ほぅ。それでは、私をもっと悦ばせてくれないとな。君はカインを超える狂犬になれるかな?」


「狂犬がどうしたって? ヨシュア」


 執務室の入り口に立っていたのは、父オリヴァー・キンドリーであった。余程、腹が立っているのだろう。入るなり、上質な革でなめしたソファーを思い切り蹴り飛ばした。その足でツカツカと歩み寄ってくる。


 またかと言わんばかりのヨシュアが、スーツの乱れを直しつつ椅子から立ち上がった。


「何かお気に召さない事でもありましたか? 私、ギプスが取れたばかりなんですけれども。7セブン、君は席を外してくれないか。父さんもノックくらいしてください」


「構わないぞ。続けたまえ、7セブン。息子を存分に悦ばせてやってくれ」


 カチリ


 リボルバーのトリガーに手を掛けたオリヴァーが、7セブンの頭に銃口を押し付けていた。その威厳に満ちた風格たるや。流石は先代のと認めざるを得ない、獅子の如き激しさを身にまとっている。


 ヨシュアは黙って両手を挙げると、スラックスの前を開けたまま椅子に座り込んだ。



 


 ◆




 

 国境を越えた少し先にある人種をごった煮にしたような街。そこにキングたちは訪れていた。広場を中心にして街が放射線状に広がっている。フェスティバルかと見まがうような、色とりどりの屋台。石畳連なる通路では男がギターを片手に歌っていた。


 キングは、通路を横断するタペストリーを興味深い面持ちで眺めていた。どれも同じようで微妙に形と色が異なる。


「すごい。こんなのテレビでしか見た事なかった」


「昔はこっちにもトロイがあったのよ。一時期いた事があるわ。カインの出身が確かこの辺りよね?」


「……そうだったっけ」


「アンタに聞くだけ無駄だったわ。戦闘バカだったの忘れてた。ホラ、この果物。カインの好物でしょ」


 レイラは店先に立つ老婆へ小銭を渡すと、冷えたライチの入ったかごを取り上げた。乾いた空気と赤道の近さを実感する灼熱しゃくねつ。良く冷えたライチの果汁が優しく喉をうるおしてゆく。


 滅多に笑わないカインの口元も、ライチの味には逆らえずほころんでいた。ぶっきらぼうな手でキングにライチを差し出す。


「お前にもやるよ、死神」


「ごめんね。僕、果物食べられないんだ。口の中がギシギシして痛くなるんだよ」


「なんだソレ……ホント、腹立つなお前」


「放っておけば良いって、カイン。キングは昔っから面倒くさい所があんのよ……あ、いた!」


 レイラがその長い足で石畳を駆け抜けてゆく。街を出た所にいたのは、里親とトロイの少年たちだった。里親は魔術師が、トロイはキューバの組織がそれぞれ保護していた。数台に分かれた大型トラックの上で、少年たちが手を振っている。


 ちなみに、キングたちはの分裂を知らない。現在のヨシュアに対して、ソビエトを始めとする東側が反発しだしている構図の事だ。


 今回、レイラが掛けると言っていた保険。それは東側に付く事であった。上層部がきな臭い事になっているというレベルの話なら、レイラたちにも伝わってくる。その噂話にレイラは賭けた。結果はどうやら当たっていたようだ。彼女には、一種の鋭い肌感のようなものが備わっていた。

 

 抱擁ほうようするレイラと里親の横で、キューバの組織がキングをジロジロと見ていた。


「お前が例のシニガミか?」


「魔術師から聞いたんだね。そうだよ、死神だ。キングって言うんだ」


 隣にいたカインがレイラと里親を見つめながら、投げやりに合いの手を入れた。


「名前なんかどうだって良いだろ」


「君にだってカインって名前があるじゃないか」


「俺のはコードネームだ」


「だったら、今日からカインを名前にすればいい。君は兵器じゃない。人間だろ」


 一見すると小柄で弱々しい少年にしか見えないキング。しかし、その真摯な眼差しはカインでさえたじろぐほどの迫力があった。サファイアを思わせる青い瞳。その目に宿る強さをカインは逸らすことが出来なかった。かと言って直ぐには肯定も出来ない。


 言葉に詰まってしまったカインは、キングを見ているしかなかった。




 

「おや、キング。お友達が出来たんですか。初めまして。私、魔術師と申します」


 上空から聞こえるその軽薄な声に、二人は視線を移した。照りつく太陽が眩しくて目をすぼめてしまう。大きなサボテンの上にいた魔術師がステッキをくるりと回しながら、シルクハットを手に取って慇懃無礼いんぎんぶれいな挨拶をしていた。


 脊髄反射せきずいはんしゃで銃を構えたカインをキングがやんわりと制止する。


「レイラの里親さんを保護してくれたのが、この死神だよ」


「私にとっては最後の仕事となりました。死神らしからぬ事をするとは、いやはや」


「――……最後?」


 突然の言葉にいぶかしんだキング。そんな彼に向かっておどけた様子で顔を隠す。その演技がかって軽妙な仕草はいつも通りの魔術師だ。

 

 僕の聞き間違いだったのかな。

 

 キングがそう結論づけた直後だった。活気に満ちた声が近づいてきたのは。レイラだ。

 

 デニムのタンクトップから、引き締まった腕を伸ばしたレイラが駆け寄って来る。彼女しては珍しくリラックスした笑みをこぼしていた。ようやく、背負っていた重荷を下ろせた。そんな清々しい表情だ。


「アンタが魔術師ね。ありがとう、里親とあの子たちの洗脳を解いてくれて」


「いえいえ、死神でも善行をほどこすのですよ。ま、気が向いたらですが」


「良かったね、レイラ」


「ええ。への盲信がなくなってたわ。理不尽な事を押しつけられてるって感覚はあったみたい。でも……エヴァへの信仰は続けるって」


「そっか。そう言えば、レイラ。トロイでは洗脳されてた子とそうでない子が共存できてたんだよね」


「そうよ。それがどうしたの?」


「どうやって共存できていたのか知りたくて」


「簡単だろ。あんな偽物より、近くにいる母親の方が大事に決まってるじゃないか。特に俺たちは、今から死んでこいが当たり前の世界で生きてるからな」


 会話の輪から少し外れた所でカインが呟いていた。そうするのが癖なのだろう。うつむいて拳銃を磨いている。


 キングの母エヴァ。彼女はキングが産まれた時には既に廃人であった。あの集落を出るまでに感じた母性と言えば、姉として慕ってきたレイラぐらいのものだ。


 ポーランドの屋敷に足りてなかったのは、母性だったのか。


 キングは、改めて己の経験不足を噛み締めていた。どれだけ書物を読み漁ろうとも、経験には及ばない。それが心の問題ともなれば尚更だ。けれども、キングは今回の出来事に希望を見いだしていた。


 ヨシュアが僕に最も望んでいるもの。それは孤立だ。だからこそ、それだけは回避しなければならない。僕は自分が足らない事を知った。


 人は、一人では生きてゆけない。


 キング、レイラ、魔術師、カイン。それぞれが物思いにふける中、最初に口を開いたのはレイラであった。


「このまま私たちはキューバの組織と合流するわ。カイン、アンタはどうすんの?」


 銃を磨いていた手が一瞬止まる。レイラを見つめるカインの瞳が恋慕れんぼで切なく揺れていた。


「……俺は戻る」


「もう良いんだよ、カイン。7セブンたちの事なんか見捨てても。州警察の連中なんて、大なり小なりの狂信者ばっかりじゃない。何なら全員ペットにしていてもおかしくないわよ、あの男」


「だからこそ、俺が終わらせてくる。せめて7セブンだけでも」


「そう……分かった。待ってるわよ、カイン。絶対に生き延びて。それだけは約束してちょうだい」


 目を逸らしたカインが頬を赤らめてうなずいていた。キングとレイラが再会以来、初めての握手を交わす。


「それじゃ、またね。キング」


「うん、レイラ。君も元気で」


「ああ……そうだ。私、アンナに酷いこと言っちゃったのよね。今度逢ったら代わりに謝っといて。弟を取られたみたいな気持ちになっちゃって、つい。大人げなかった」


「分かった。今のには死神がついてない、そうだったね魔術師」


「ええ、いかにも。現在のヨシュアは最古の取引との置き土産で守られている状態です」


「兄は僕が必ず殺す。誓うよ、これは弟としてのけじめだ」


「分かったわ。7セブンみたいな芸当が出来る傭兵は多くないけど、キング。アンタの首だって危ないんだからね、気をつけて。じゃ、行くわ」


 最後に強く手を握りしめたレイラ。彼女は歯を見せて笑っていた。太陽の光が豊かな黒髪と笑顔によく合う大粒の黒い瞳を照らす。そのままきびすを返した女戦士レイラ。彼女は自分を待つ里親とトロイの子らの方へと走り去っていった。カインも仲間に会いたいのだろう。キングを一瞥いちべつするとそのまま彼女の後を追っていった。


 二人の後ろ姿を見送るキングの目元が自然と優しさでゆるむ。しばしの心地よい沈黙が流れた。「そろそろ僕らも行こう」そう言いかけたキングに魔術師が申し訳なさそうにシルクハットを胸元へ当てた。


「報告の遅れていた事がありまして。エマとも話をしたのですが」


「どうしたの? 魔術師」


「ジョージが消息不明になりました。キング、貴方がステファン大統領と会談した日からです。私の力をもってしても未だ、消息が掴めていません」


 遠くでは、レイラたちを乗せたトラックの走り去る音が聞こえていた。



 


 ◆




 

 ヨシュアの執務室では、引き続き緊迫した空気が流れていた。


 オリヴァーの怒りは完全に常軌を逸していた。確かにオリヴァーは、怒りを暴力に訴えるところがあった。だがしかし、それはあくまでも机や椅子といった物に限られていた。


 それが一足飛びに駆け抜けて、銃を持ち出してくるとは。


 オリヴァーの怒りに欠片も心当たりがなかったヨシュアは、そのまま押し黙るしかなかった。


「気持ち良くしてもらいながら聞け、ヨシュア。連邦ビル爆破テロの件だ」


「ああ……残念ながら失敗に終わりましたが。犯行声明は出してあるので問題はないかと」


「鑑識から焼死体のDNA鑑定結果が上がってきた。女の死体はロシア人だ」


「どうせキングとか言う死神の介入があったんでしょう。どうしたんです? 父さんらしくもない」


「ハッ、実は死神がやりましたとでも今度は声明を出すのか? お前が気持ち良くなってる間にマスコミがまことしやかに流していた噂を教えてやろう、ヨシュア。『教団イブの庭にはソビエトが関与している』だ。これがどういう意味か知らんとは言わせんぞ」


 オリヴァーの低い声が執務室に響き渡る。銃を持つ手には更に力がこもり、7セブンの顔が完全にヨシュアの股間に埋まった。


「……申し訳ありませんでした。ソビエトへは今すぐこちらからフォローを入れます」


「いいや、必要ない。ソビエトとイスラムはの私に選択を持ちかけてきた」


「と、申しますと」


「ヨシュア、お前の剥奪はくだつするか。それともキングと共同でおこなうかだ。もう一人の息子。そして死神でもあるキングとのな」


 オリヴァーの言葉を聞き終わらないうちにヨシュアが立ち上がった。着衣の乱れすら気にならない様子で、目が大きく見開かれている。彼は目の前にいる7セブンが急に邪魔になって、雑に蹴り上げた。


 ようやく事の重大さを理解したと判断したオリヴァーが、銃を下ろす。だが、その目は冷ややかなままであった。


「私がどれだけあちら側に掛け合って頼み込んだと思ってる。剥奪はくだつされてみろ。お前など次の瞬間には処刑されてるぞ! もう何度目の失態だ? え? 言ってみろ!」


 青ざめた顔で唇を噛んだヨシュアが屈辱くつじょくにまみれた声色で答えた。


 『』の奪取失敗

 死神キングの捕獲失敗

 オリヴァーの再選直後に起こしたハイスクール銃乱射事件

 そして今回の連邦ビル爆破テロ失敗とトロイによる離反りはん


「大本の原因は何だ。言え、ヨシュア」


「――それは……」


「言えと言っているだろう!」

 

「悪いのはあの死神だ。キングのせいですよ、オリヴァーさん」


 ヨシュア、オリヴァー、7セブン。その誰もが一切の気配を感じなかった。突如として具現化ぐげんかした気配に、その場にいた全員が本能的な恐怖を感じていた。首筋に氷水でもかけられたようだ。怖気おぞけのあまり全身が総毛立そうけだつ。


 オリヴァーは咄嗟とっさに銃を構えていた。7セブンもその身を呈してヨシュアを守る。


 彼らの背後でぼんやりと佇んでいたのは、痩せこけてぼろ切れのようになったジョージであった。彼は何がおかしいのか、狂気すら感じる微笑みを顔に貼り付かせたままだ。




 

 とは言え。救いの手とはまさにこの事。たとえ相手が洗脳されきっている男であれ、この場をやり過ごせるなら何でも良い。


 割り切ったヨシュアは、着衣を整えるとジョージの元へ歩み寄った。


「ご紹介が遅れました、父さん。モリシタ元所長の息子、ジョージです。来るなら連絡してほしかったな」


「――……? 気がついたらここにいたんだ。ここは……どこだ?」


「ちょっと待て、ヨシュア。確認をしていいか。モリシタってあの自殺した医師の事か?」


「ああ……貴方が。その節は父がお世話になりました。研究所でも何度かお会いしてますよね、オリヴァーさん」

 

 幽霊にしか見えない動きでジョージが一枚の写真を差し出す。その写真を手に取ったオリヴァーは、ついに完全硬直してしまった。


 モリシタ元所長、ヨシュア、それからこの男が映っている古い写真。これを撮ったのは……私だ。モリシタから、息子のジョージは実験に失敗したと報告を受けていた。実験の失敗。それはすなわち死を意味する。あの時はそれ以上の詮索せんさくをしなかったが……生きていたのか。


「この写真を撮った男こそが、諸悪の根源です……これを撮ったのはでしょう? 俺はね、覚えているんですよ」


 鼻から口周りにかけてこびりついた血液。それを拭おうともしないジョージが引きつった笑みを浮かべていた。気圧けおされたオリヴァーには話を合わせるしか選択肢がなかった。直感で分かるのだ。否定をしたが最後、ここが血にまみれた惨劇の舞台となることが。


 一方、現実という名の世界線。こちらでは、ステファン大統領が研究所を訪れたのはたったの1度。それも公式訪問のみであった。ジョージらが在籍していた時には大統領にすらなっていない。


 突如、ジョージが独り言のようにブツブツと核心を語り始めた。


ならクロエに固執こしつせずとも、もう一体います」


「――……どういうことかね? ジョージ君」


「このファイルに記載されていました。父は……ステファンに極秘で実験していたんです」


「父さん、が最初に発見されたのはいつです?」


 もう1冊のファイルには初めて目を通すヨシュアも、にわかには信じがたい表情を隠せないでいた。


「作成者はではないかと言われている。あの死神はテクノロジーの進化にも貢献してきた。最初に発見されたのは……あれ? いつだった?」


 思わずファイルを奪い取ってしまったヨシュアが、凄まじい勢いでページをめくり続ける。


 (XX年X月X日:アジア人遺伝子との適合率は『』でも顕著。72%)


 (XX年X月X日:乳児(女)に挿入成功。へは極秘とする)


 (XX年X月X日:成功体オウル乳児(女)の眼球がユカリ・モリシタに適合可能か検査開始)


「すごい……モリシタ所長は解析をした上で、17年以上も前にチップの挿入にも成功してる。だとすると、現在の成功体オウルはどうやって選別したんだ。父さん、心当たりはありませんか」


「簡単な話じゃないですか、二人とも。もう一体のは、クロエの姉だ。血縁者が一番、適合率が高い」


 血走った目のジョージが、何を言っているんだと言わんばかりに声を張り上げた。興奮しているのか、再び鼻血がしたたっている。


 その瞬間だった。


 オリヴァーの拳銃が磁石のようにジョージの身体へ貼り付いていったのは。装填そうてんされた弾丸はの置き土産であった。と同時に、ヨシュアの所持していた同じく置き土産の針とナイフ。そして、7セブンが仕込んでいたチェーンもジョージの身体に貼り付いてゆく。

 


 呆然とするしかない三人にジョージが宣告をした。


「クロエには手を出すな。絶対だ、約束しろ。その代わり、俺がステファンを殺しても手に入れてやる」


 両手を広げてゲラゲラと笑い始めたジョージを、どこからか吹いてきた冷たくて強い風が包み込んでいた。




 

  -次エピソード『死神の罪悪感』へつづく-

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