第2話 声が聞こえる?

《やっと〈あるじ〉である第一の脳に神経を接続できました。私は第二の脳です》


 なんて?! 僕は混乱した。

 今の状態になって初めて会話した相手が第二の脳。

 第二の脳? そんなものはないよね? 人間には。


 そして、第二の脳の発言によると僕は第一の脳。

 第二の脳を持つ恐竜がいたという話もあるが、そういう類いのものだろうか。きちんと確認してみよう。


---------------脳が二つある生物で僕は第一の脳なんですか?


《そうです》


 第二の脳は、はっきりと答えた。今の僕は脳が二つある生物の第一の脳。続けて最も気になっていることをストレートに尋ねてみた。


---------------で、僕らは何者なんでしょうか?


 第二の脳は、少し間をおいてこう答えた。


《何と言っていいのかわかりませんが、巨大な生物です。そして人類の敵です》


 えっ?! 巨大?! 人類の敵?!

 想定外の答えに僕は激しく動揺した。

 動揺した僕を察したのか、第二の脳はこう続けた。


《でも安心して下さい。私たちの方が強いですから》


 強い?!

 強いのはいいけど、動揺したのは人類との勝ち負けについてではない。


 第二の脳の発言により、今の僕は人間ではない謎の巨大生物ということが判明した。普通ではないと思っていたけど、やはりショックだ。

 しかも人類の敵とは。


---------------僕は元人類なんだけど?


《特に問題はありません。大丈夫ですよ》


 第二の脳としては問題ないらしい。

 第一の脳の僕としては、すごく問題なんだけど。


 状況は最悪っぽく、疑問は増すばかりなのだが、不思議と気持ちに余裕がある。これは第二の脳と接続できた効果なのだろうか。


 今の僕は人類でなくとも仲間に会いたい、助けて欲しいと思い、質問を続ける。


---------------同族の仲間はどこにいるの?


《今はいません。でも世界のどこかに卵があるはずです》


 また想定外の残念な答えが返ってきた。

 僕は世界中で独りぼっち。しかも卵から生まれる生物らしい。今の僕は哺乳類ですらない独りぼっちの謎の生物。動揺を隠せない。

 どんな生物かわからないのに確認しても仕方のないことなのだが、さらに質問を続けてみた。


---------------ちなみに僕らは男なの? 女なの?


《性別はありません》


 またしても残念な答えが返ってきた。

 雌雄同体? 一体どんな生物なのだろう? 謎は深まるばかりだ。


 ともあれ体内で会話が出来るというのは、凄いことだ。

 こうやって会話していると第二の脳というか、まるで別人格のように感じる。一人で絶望していた僕にはとても嬉しいことだった。


 そこで僕は思いついた。

 これからずっと第二の脳と呼ぶのもアレだから名前をつけよう。

 名前をつければ独りぼっちじゃない気分になれそうだし。

 どんな名前がいいだろうか、少し思案したのち、僕はこう呼ぶことに決めた。


 第二の脳だから、略して『ニノ』


 少し安直だっただろうか。第二の脳に名前を提案してみた。


---------------君の名前は『ニノ』どうかな?


《わかりました。いいですよ》


 素っ気ない返事だが、文句はないようだ。


 さらに僕は良いことを思いついた。

 雌雄同体の生物だとして、第一の脳は僕、男。

 それならば第二の脳は女性ということでもおかしくはないはずだ。

 これからの生活を華やかにするために美少女ということにして想像してみよう。ちょっと変態っぽいが、これから独りぼっちなのでこれぐらいは勘弁してほしい。

 そう思ったら鮮明に銀髪の美少女が浮かんでくる。これはヴァーチャルリアリティどころではない。実際に存在しているかのようなクオリティだ。凄く良い。

 そして、つい口走ってしまった。


---------------ニノ、可愛いな。


《……私にもイメージは伝わってきてますけど、その姿は第一の脳〈あるじ〉の想像ですよ?》


 ニノは表情を変えることもなく、冷静に答えを返してきた。


---------------そうか、ダメかぁ。


《いえ、ダメではないです。私、今まで自分の姿がありませんでしたから》

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