第7話 悩み
まさかの出会いで桐峰さんがオタクということを知ってしまった俺。そしてなんやかんやあり……
「部屋汚いけど、どうぞ入って。私、母、父、妹の4人家族だけど、今は私だけだから気軽にしていいよ」
いや逆にゆっくりできないんだけど? なんでそんな平然としてるの?
そして桐峰さんの部屋に入る。
「うわっすげぇ……」
フィギュアにコミックにライトノベル。他にもアニメグッズが山ほどある。
「あれ? これって見たことあるな?」
この可愛い少女が描かれているイラスト。どこかで見たけど思い出せない。
「あ、その絵は私が描いたものよ」
「え? でもこれどこかで見たことあるよ」
間違いなくどこかで見たことがある。
「私、SNSで活動してるのよ。ラミエルっていう」
「ラミエル!? 俺、そのアカウントフォローしてる! 昔、すごいと思って」
活動は少なかったが、ある時たまたまイラストを目にしてフォローした記憶がある。なんというか、オタクにぶっ刺さる絵。言語化できない神イラスト。これが天才というのかもしれない
「まぁ、結構フォロワー数もいたり、依頼も来てたけど忙しいから今はほとんど休止状態だけどね」
なるほど。あくまで学生だからということが。
「将来はイラストレーター志望?」
「うん。私には夢があるの。一応大学生にはなるつもりだけど、志望する大学も芸術のところだし。大学生になって、少し時間ができたら依頼も受けて、知名度あげて……」
芸術系の大学か。活動もできていいな。
「それで?」
「私はラブコメが大好き。もちろん他のジャンルも好きだけど、それ以上にラブコメが好き。だから私は、可愛いヒロインが描きたい。それも神作品のね」
「そんなにラブコメが好き?」
別にラブコメ好きはこの世に多くいるけど、何か引っかかる。桐峰さんは美少女でモテるのにと思ってしまう。
「うん。私自身も執筆してみたりしたけど、物書きの才能はなかったみたい」
「いやこれでも凄いぞ……俺が気まぐれで執筆してみたときはポイント2桁だったのに」
俺が軽い気持ちで執筆したときは伸びなかったのに……物書きのほうの才能は絵を描く才能より劣るかもしれないがそれでもポイントは3桁だ。閲覧されている回数は少ないけど、固定のファンが一定数いて凄い。ラブコメ好きはラブコメ書けるのか。いや桐峰さんの才能だろう。
「そうなの? 今度読ませてよ」
「そんな恐ろしいこと言わないでおくれよ」
俺の駄作は見せられねぇよ……マジで。
「それより先に、本題について話していい?」
「私がなぜこうなったかについて、だね」
そういって、桐峰さんは語りだす。
「私は、よく告白される。芸能事務所の人からもスカウトされる。私は、美人なんだなって気づいた。私は普通に青春する予定だった。あ、その時からアニメは観てたよ」
変にごまかすより清々しいな。
「それでね、中学2年のころだったかな。私も結構好きだった先輩と付き合えて、仲良くなって。
楽しかった。そのころはもう結構オタクになったかな。あ、まだラブコメにはハマってないよ?」
アニメにはハマったけど、ラブコメはまだハマってないのか。何かありそうだな。
「はじめて、部屋に呼んだ時、付き合ってた先輩はこういったんだ。」
「真玲は、美少女だからこういうのはダメだよって」
それはあまりにも残酷で重い一撃。偏見、差別。こういうので、アニオタがどれだけ苦しんだか。
「普通の恋愛がしたかったよ。許容してほしかった。でね、ラブコメはキラキラしてた」
皆、読んだり、観たりして一度は夢をみる。あんなキラキラな恋愛してみたい、パートナーが欲しいと思う。それで、桐峰さんもラブコメ好きになったんだろう。
「まぁ、その彼とは別れたけど、まだ続きがあるの。それからイラストを描き始めて、あまり多く描けなかったけどある1枚がバズっちゃってね」
そうやって、さっきみたイラストを指す。確かに群を抜いて、人気だった覚えもある。
「それで、なんかすごい絵師とかのオタクのオフ会しようみたいなことになったんだよね。オフ会では私みたいな女性は少なかったし、男ばっかで。私の活動を応援してた人も、どこ住んでるの、とか連絡先交換しようとか」
まぁ、あるよな。男とか、普通の女の子が来ると思っていたら超絶美少女だからな。
「私の容姿を好きになってくれた人は、私の趣味を否定した。私の趣味でつながった人は、私の活動を無視した。この事がすごい悲しかった。辛かった。君にオタクは似合わない、顔を晒すぞ、楽しいことしようよとかさ」
どうやら壮絶な過去だったらしい。自分の趣味や活動を無視されたりする辛さ。
「それで、今があるのか」
「私は、可愛い女の子でいいんだって。真凛みたいな女王に仕えてるのでいいんだって」
よくあるラブコメのサブキャラになろうとした、とも呟いた。求められている自分を演じようとしたと。
「だからオタクを隠して生きてた。バレるのが怖かった。脅されるのが苦痛だった」
ずっと抱えていたんだろう。だからバレたとき、凄いおびえていたのだろう。だから俺も、本音で向き合う。
「俺は、オタクが軽蔑されるのが許せない。けど、反抗もできない。隠れて生きるしかない。そう思ってた」
「……」
「でも、太みたいなオープンな人も増えたし、アニメも日本の文化になった。認められた」
確かに、アニメオタクです! とかいうのは少し恥ずかしい。けど馬鹿にされるのは違うと思う。人の趣味に口出しするのは違う。けど、アニメは成長して日本の文化になった。俺はもう堂々してもいいと思う。
「だから、アニメオタクは素晴らしいって信じてる。でも桐峰さんみたいな特殊な例もある」
確かに、求められるキャラがあるのが昨今。
「それは各々の自由だよ。今の状態を捨てるか、怖がって、問題から逃げても好きなようにしたらいいと思う」
今を捨てて、キャラを変更しても、隠しながら今を楽しんでも良い。結局は自分次第。生きやすかったり、楽しかったり。その選択は絶対に何かにつながる、と俺は思っている。
「困っているなら話は聞くし。俺は絶対に秘密にするし、話したいことがあったらいつでも聞くし」
「いいの?」
「まぁ、俺も頼りないけど。困ってる人は見逃せないし。オタク友達が増えるならうれしいし。よかったらだけど」
まぁ知っちゃったからには、ほっておけないしな……
桐峰さんは、涙を拭き、笑顔でvサインをしながら
「もちろん仲良くする!」
と言ってくれた。
その姿は美しく、非常にきれいだった。俺も笑顔でvサインを返した。
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