緑陰に
Day11 緑陰
ふと、呼ばれた気がした。
立ち止まって周りを見渡す。避暑地にある林の中の遊歩道には誰もおらず、遠くから鳥の声が聞こえる。強い日差しが木立の隙間をぬって降りそそぎ、陰は濃い色を落としていた。
遊歩道から少し外れた東屋のそば、その木立の影に白い日傘が見えた。日傘は日差しをまったく遮って、目の届かない陰りを作り出している。それでも笑った口元からのぞく白い歯は見えた。濃い色の着物は影の中に沈み、ヒラヒラと振られている白い手だけが浮き上がっている。
あれは誰だったか。
私は誰かと待ち合わせていた?
強い日差しが帽子をかぶり忘れた頭の天辺を焼き焦がす。汗が額から流れ落ちて目に入った。
汗を拭った目に、ヒラヒラ揺れる白い手が映る。
ああ、待ち合わせていたのだった。
そうでなければ、わざわざこんな人気のない場所にこないだろう。
遊歩道に降り注ぐ強い日差しで目がくらみ、木立の影がいっそう暗く見えた。
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