悪い子?

@nirup

第1話

分からなかった。昔から、ずっと。




「お母さん。お父さんはどうして、人を殺しても、捕まらないの?」


「相手が、悪い人だからよ」




分からなかった。




「お母さん。お父さんはどうして、お母さんを傷つけるの?」


「愛しているからよ」


「お母さんは、傷つけられて、悲しくないの?」


「ええ、私も、お父さんを愛しているから」




分からなかった。




でも、ただ、そういうものなんだろうと、漠然と理解していた。




そうして、大人になった。




私は、誰から見ても、普通の女の子だったと思う。




小学校は、他の女の子と、足の早い男の子の話をして、満点をとってはしゃいで。




中学校は、スマホを始めて持って、すこし、ネットの怖さを知って、公立高校にはいるため、勉強を頑張って。




高校は、勉強をサボって、夜な夜な友達と遊んで。特に理由もなく、大学へ行って。




大学は、暇な時間が多くて、沢山遊んで、単位がどうとかお話をして、卒論で悩んで発狂して友達と笑って。




社会は。




私は、どこにでもある中小企業に入った。




そこには、1人、特徴的な男の人がいた。




イケメンで、寡黙で、警戒心が高く、女性が苦手。




そんな男の人。




私はその人に対して、なにかアクションを起こすことは無かった。興味を示さなかった。




それが最善だと思ったから。




彼は、すごく警戒心が高かった。彼は、誰かと二人きりになることを嫌った。人前でスマホを触らないし、よく人のことを見ている。




みんなには猫みたいだと好評だった。




鳴かないかな。にゃー。




そんな彼だけど、私には、私にだけは、少し油断してくれるようになった。




私となら、2人きりになってくれる。私の前では、彼は赤べこのようになる。彼は、私の瞳を直視しない。




彼はイケメンだから、正直そういうことをされると、あぁ、イケメンってずるいなぁって思う。




彼は私よりも可愛いと思う。みんなもそう言っていた。ちくしょう。




彼は私と過ごすうちに、どんどんと積極的になっていった。懐いた、って感じかな。




彼の方から遊びに誘ってくれたし、彼の方からプレゼントをくれた。




ものすごく嬉しかった。口元がニヤつくのを我慢するのが大変だった。うん。私頑張った。




そして、それからしばらく時間が経って。




彼の家に遊びに行くことになった。




そして、彼に告白をされた。「あなたを愛してます。僕と付き合ってください」って。




簡潔で、ありきたりで、それでもしっかりと愛のこもった言葉と一緒に、彼は私にスノードロップという花をくれた。




私が好きだと言った花だった。覚えてくれていたのか、そうでないのかは分からなかったけど、きっと彼なら、どちらにしてもその花をくれただろう。彼らしい、花だから。




そして。




彼は死んだ。




私が殺した。




私は涙を流しながら心でつぶやく。




お父さん。お母さん。私、いい子だよね?












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