第26話 霧の王国

 霧はとても濃くなり、

 周囲はよく見えない。

 すると、突然前に大きな石の壁か現れた。


「これは城壁かしら」


「しかも日本じゃなく西洋風ですね」


 いひかとエクスさんがそういった。

 積まれたレンガのような石は同じ大きさで、

 日本の城壁とは違っている。

 近づくと大きな門がある。


「少し......

 あいていますね」


「行くしかないだろうね」


 ラクリマとヒミコさんはいう。

 

 オレたちは慎重に門の中に進む。

 門の中にはいるとすぐに門は閉じ、

 押しても引いてもあかなくなった。


「完全に閉じ込められたわね」


 いひかはそういって銃を手に取った。


「そのような危険なものは、

 持ち込まないでいただきたい」


 声のする方を見ると、

 空に翼のはえた燕尾服姿の美しい少年がいる。


「あなたが織部 偶人おりべ ぐうじんですか」


 エクスさんはメタトロンを持ち構える。


「私を捕らえに来た方ですね......」


「待って下さい!!」


 突然声をかけられる。

 見ると何人もの男女がこちらを怯えるように見ていた。


「あなたたちはさらわれた人たちね」


「オレたちは織部を捕まえに来たんです」


 オレたちがそういうと、

 その人たちは手に棒や包丁などを持ちこちらに向けた。


「帰ってください!!」


 そういって威嚇してきた。


「みんな、やめなさい......

 少し話をしましょう。

 私の城に来てください」


 静かにそういうと、

 織部は奥に見える城に飛び去っていった。


「......意味がわからないけど、

 取りあえず城にいくか」


「そうだね」


「そうね」


「ええ」


 オレたちは遠くに見えた城を目指して歩いた。

 

 しばらく歩くと、ヨーロッパ風の町に入る。


「これ町か?」


「こんな町まで作ってるの?」


「もう、一つの国ですね......」


 町並みを眺めながら歩く、

 周りには怯えた表情でこちらを見ている、

 多くの人々がいた。


「これ織部じゃなくて、オレたちに怯えてない?」


「ふむ」


「みたいね」


「ええ......

 どういうことでしょう?」


 オレたちが、町を抜け丘にのぼると、

 大きな西洋の城が目の前にあった。

 一応警戒しつつ中にはいる。


 中央まで進むとの大きな部屋があった。

 そこに大きなテーブルのむこうの椅子に座っている織部がいた。


「どうぞ」


 織部にいわれ席に着く。

 テーブルの上には豪華な食事が置かれている。


「ここでとれたものです。

 もちろん毒など入っていません」


 そういって、真ん中にあるワインを開け自らの杯に注ぐ。


「子供なのにいいのか?」


 オレがとうと織部はにっこり笑う、

 それはとても綺麗な顔なのに不気味に感じる。


「見た目はこんな感じですが、

 もう二百才を過ぎた老人ですので」


「二百才!?」


「ええ、

 私はもはや人ではありません」


 そういって織部は服の袖をまくりあげる。

 その腕のひじは丸かった。


「球体関節......

 君、その体は人形かい」


「ええ......

 そうです」


「人形の身体......

 いやそれより、なぜ魔法使いをさらうんすか」


「それは、彼らが不遇な状態だったからです」


「不遇......」


「彼らは魔法使いながら、

 その力は弱い。

 その力なき者たちが、

 魔法使いの世界でどうなるかご存知ですか?」


 そういって、織部はエクスさんといひかをみる。

 二人は目を伏せた。


「......そうです。

 力なき魔法使いは、他の魔法使い、

 あるいは一族からも嫌悪され、

 あるものは実験台や生け贄にされてしまう......」


「人間さらった方が楽じゃないすか?」


「魔法使いの方が魔力があるから利用価値が高いの。

 しかも弱い魔力の者なんて、

 さらわれても、一族の恥だと考えて捜索すらしないわ」

 

 そういひかがいう。


「それを保護してるってことすか?」


「にわかには信じられないけど......」


「ですがいひかさん......

 あの人たちは操られてるようには、

 見えませんでした」


「......まあね。

 私の魔力感知でも、

 魅了チャームなどの魔法はかかってなかったわ」


 いひかとエクスさんはこの現状をどう受けとればいいか、

 思案しているようだ。

 

「疑うのなら、いくらでも彼らに聞いてみて欲しい」


 織部にそういわれると、

 二人はうなずき、外に出ていった。


「で君は僕たちをわざと呼んで、

 何をしたいのかな?」


「わざと、やはりそっすか」


 オレは魔法を使おうとした。

 それをヒミコさんは制した。


「いいよタイガくん。

 話を聞こう」


「すまないな、騙すようなことをして......

 ぜひ貴方たちに頼みがあってね。

 特に永遠の魔女に」


 そういって綾部は哀しげにヒミコさんをみる。


「ふむ、知ってたか」


 綾部はペンダントを机に置いた。


「これは君の身体、左足だ。

 返そう」


「それで頼みとは」


 そのペンダントをみながらヒミコさんは聞いた。


「......私はもう長くはない......

 この体は人形だけれど不死でも不老でもない。

 もうすぐ朽ちてしまうのだ......

 だが、この場所は彼らを守る最後の砦」


「頼みとは彼らの保護だね」


「そうだ。

 私が死ねばこの結界も失われる。

 彼らの力だけでは結界はつくれない」


「なるほど、あの時、僕を襲ったのはわざとか」


 織部は微笑む。


「一体何のために!?

 普通に頼めばいいじゃないすか!」


「僕に罪悪感を植え付けるためさ。

 会ったとき、この話をして、

 断りづらくするためだろう」

 

 ヒミコさんの言葉を聞いて織部へ目を閉じる。


「私は彼らと同じで能力がなかった。

 だから親による魔法実験で、

 この人形の身体に意識を移されたんだ。

 皮肉なことにそのおかげで高い魔力を持つようになった」


「マイルズと同じか......

 つまり、同じ境遇の彼らに同情して、

 保護していたしたのかな」


「そうだね......

 きっとそうだ。

 そして、貴女は変わり者で滅茶苦茶な人物だが、

 弱いもの等には非道をなさない」


 織部は真剣な眼差しでヒミコさんを見据える。


「それにしても無茶をするな。

 監獄から出られなければ、

 意味はないだろう」


「それならば問題はない。

 この貴女の身体を手に入れたからね。

 この身体があれば必ず会いに来ると思っていた」


「なるほど」


「その身体どうやって手に入れたんすか?」


「誰かはわからない......

 ただ身体が送られてきたんだ」


「やはり不明か......

 ......まあ、いいよ。

 君の願いを聞き入れよう」


「......ありがとう。

 これで思い残すことはない」


 織部はそう感謝の言葉をのべ、

 この結界魔法をヒミコさんに伝えた。

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