第4話 ブラックマーケット

「これって腕すかね」

  

 ローブの男から奪い返した木箱を開けると腕が入っていた。


「左腕だね。

 あの男の話だと、ブラックマーケットに出てたらしいけど」


「確かに逝ってましたけど......

 ブラックマーケットってなんすか?」   


「裏の商品、生け贄や悪魔、

 魔法のアイテムを売る市場さ。

 でもそんなポピュラーな場所で売り払うなんて」


「いや、全然ポピュラーじゃないっすよ。

 なんすか悪魔とか生け贄とか、

 そんなもん簡単に売らないでほしいんですけど」

 

「それにしても腹が立つよ。

 僕の身体だよ。

 払った金額も五億なんて安すぎだろ!」


 ヒミコさんは変なことで怒っていた。

 

「しかも彼のような小物に売るなんてね」


「でもなんか五倍になったーとか叫んでましたけど」


「うん、まあこの左腕に隠された鍵を使えるほどの魔力は、

 彼は持ってなかったから、

 単に魔力増強のアイテムとして使ってたんだろう。

 僕の身体には膨大な魔力が宿ってるからね。

 それでも魔力を操る力が弱くて僕の魔力で弾いたけどね」


「それをそんな魔法使いに売るって、

 情報全部とったから不要になったとか?」


「いや、それはないだろうな。

 僕のそれぞれの身体自身をトリガーにして、

 発動する魔法があるからね。

 例えばこの左腕は、再生の魔法が使える。

 だから手に入れたら、

 置いておききたいと考えるはずなのだけれど.....」


「ますますわかんないっすね」


「でも最初がこれでよかった、

 これは僕が取り込もう。

 さすがの僕も眼球だけではどうしようもないからね。

 それでは明日、ブラックマーケットにいくよ」


「へい!」


 そして次の日、オレたちは都心のタワマンの前にいた。


「えっ? ここっすか」


「ああ、さあ入ろう」


 うながされるまま、マンションのエントランスに入る。

 

「なっ!?」


 オレは驚いて声がでた。

 そこは先ほどの外観とは違い、

 人がごった返す市場のようになっていたからだ。


「隠蔽や空間拡張の魔法がかけられていてね。

 外とは違うのさ」


「へー、もうなんでもありっすね。

 タワマンの中のはずが空まで見えますよ」


 少し歩くと怪しい人たちとすれ違う。

 ローブをまとうもの、仮面をしたもの、

 どう考えても普通の人より大きいまたは小さい者、

 獣のような顔をしている者など、

 一見して異質な外見の者がいた。


「なんか、明らかに人間じゃない人もいますけど......」


「ああ、人外のものもいるさ。

 ただその姿は魔法で変えているかもしれないから、

 あまりあてにはならないけどね」


「そうなんですか?

 あっ!」


「ん? どうしたんだい」


「あれ!」


 オレはガラス張りの中で踊る、

 えちぃな衣装の綺麗な女の人を見つけた。


「すげーー!!

 めっちゃスタイルいい、あと美人!!」

 

「ああ、近づいてみるといい」


「いいんすか!

 よーし近くでみるぞーー!」


 オレがガラスに張り付いてみてると、

 踊ってた女の人がガラスに顔を近づけてきた。

 オレの目の前にきた瞬間、

 口が裂け大きな牙で噛みつこうとしてきた。


「うわぁっ!!」


「はははっ、それは悪魔さ。

 サキュバスだね」


「......びっくりしたー!

 普通に悪魔いるんすね」


「ああ、魔法使いと契約したり捕らえられたりするからね。

 ほら、となりにも面白いものがいるよ」


 隣のガラスの中には、

 こちらも人形のように綺麗な、

 西洋人でも東洋人でもない女の子や男の子がいる。

 そのガラスの中の少女の一人は左右、目の色が違う。

 彼女は無表情だが、何か悲しそうに見えた。

 

「人間も見世物っすか」


「まあ生け贄用にそういう売り物はあるが、

 これは人じゃない。

 ホムンクルスさ」


「ホムンクルス?」


「神が人間を創ったのを真似て、

 人間が創り出した生命、

 それが人造人間ホムンクルスさ」


「人造人間......

 じゃあ、そのホムンクルスってつくれるんですか?」


「ああ、フラスコに馬糞と精液を混ぜてつくる......

 何て言われてるね」


「それ馬じゃなくて、人のでもオッケーすかね」


「何をするつもりなんだい?

 まあ実際そんなものでつくれはしないさ。

 僕は一体しか創ったことがないが、

 帰れたらいつか教えてあげてもいいよ」


「マジすか!

 ん? 帰れたら?」


「でも、彼女は......」


 ヒミコさんはなにか気になっているようだ。


「これはオークションの売り物か......

 さあ、オークションにいくよ」


 オレはうながされるまま歩く。

 

「でも、ホムンクルスにしろ悪魔にしろ、

 そんなの売ったりしていいんすかね。

 まあ、法律とかないからしかたないっすけど」


「魔法使いたちにも法はあるよ。

 そういう組織があるからね」


「なのに売買してるってことっすよね」


「なるほど......

 まあ常識的な人間ならそう思うだろうね。 

 前もいったが魔法使いってのは、

 倫理観や常識なんてのは通用しない人種なのさ。

 そして自らの欲望のままに、

 あらゆる願望を叶えようとする人の皮を被ったケダモノ。

 いや人間が元来そうなんだが、

 彼らはその抑えられるべき我欲を解き放った存在だ。

 まさに人間そのものだともいえるね」


「ヒミコさんもすか?」


 ヒミコさんは少しだけ沈黙する。


「......そうだね。

 だってほら、君を巻き込んでいるだろう。

 ただ、勝手を承知でいえば、

 君には僕らみたいにはなって欲しくはないな」

 

「大丈夫っすよ!

 オレえちぃこと以外はまともっすから!」


「......いや、それはそれで大丈夫なのかな?」


 ヒミコさんは苦笑した。


 オレたちはオークションが行われるという会場に向かう。

 その会場となっている中央のテントでは、

 オークションが行われていた。

 扱われているものは、悪魔や魔導書グリモア

 剣や指輪などの魔法のアイテムだった。


「あ、あのヒミコさん?

 これさっきから最低落札価格一億みたいなんすけど......」


「ああ、それ以上の価値があるからね。

 それより、ほらあれだ」


 壇上に赤い布をかけられたモノが大切そうに運ばれてくる。

 オークショニアが木槌をふり机を叩く音が会場に響く。


「これより本日の目玉!!

 あの伝説の魔女、ヒミコの右足!」


 その声で会場が波のように驚きの声があがる。


「嘘だろ!?

 あの魔女の身体だと!!」


「ありえないな、今までこの手の嘘にどれだけだまされたか」


「戦って足だけ奪い取ったとしても、

 そいつ死んでるだろ。

 どうやってもってきた」


「だが、死んだんじゃないかという噂はある。

 仲間がいたのかもな」


「あの《永遠の魔女》がか......

 眉唾物だな......」


 客たちはそう口々に話している。


「なっ、僕は有名人だろ」


「なに喜んでんすか、自分の身体売られてんのに」


 オークショニアが手を上げ呼び掛ける。


「まず一億から!」 


「一億からっすよ!

 オレ二十円しか持ってないっすけど!

 どうすんすか!?」


「大丈夫だよ。

 とにかく競り落としてくれ。

 あとこれ円じゃなくてドルだけどね」


「えっ! それじゃ百億以上......」


 オレは驚いたが一応勇気を出して手を上げる。


「に、二」


「はい! 二! 他にはないか」


 オークショニアが声をかけるも、

 会場は水をうったようにだれも反応しない。

 

「二ってことはないだろう!

 僕の身体だぞ!!」


 ヒミコさんが怒っていった。


「なんに怒ってんすか......

 安い方がいいでしょうが」


 オークショニアが木槌をふろうとした瞬間、

 静かな会場に声が響く。


「五十」


 その声の方をみると、

 帽子と灰色のスーツをきた、

 紳士のような若い男が手を上げている。

 

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