最終話 ハナガサク
五年という年月は色々な事が移り変わっていく。
コウキ、リキもそうだ。
海外での活躍が認められ、映画の主題歌を担当、CM楽曲提供、初のアメリカツアーを行ったり、それは目まぐるしいくらいだ。
ツアーが終われば、二人で個人スタジオに籠って、新しい楽曲制作を始める。
だがひとつだけ、変わったことがある。
リキは兼ねてから親交のあった、一般女性と結婚。
現在一人娘を絶賛可愛がり中。
そんな彼も遅すぎたかもしれないが、やっと親孝行らしいことが出来たかな、と恥ずかしそうに笑っていた。
ボーカリストとしてもそうだが、ギタリストとしても人気を博し、多方面からは『カッティングの鬼』という名まで付けられた。
強面の外見からとられているとも、演奏している時の表情からではないかと、様々な捉えられ方はされている。
そしてコウキ。
この五年で『斑鳩・フォーチュン・チルドレン』をここまでビッグネームに牽引したのは彼である。
個人の活動も増え始めてはいるが、出来るだけ『斑鳩・フォーチュン・チルドレン』としての仕事を引き受ける様にしている。
これには彼の理由があった。
ユイが一年経って日本に帰国し、美大を卒業。
最初こそ、画家としてはまだまだだが、個展を開けるぐらいまでは成長出来た。
そして度々賞をもらったりしていて、プロの画家として成功していった。
画家として新しいアートを世に送り出していた。
それだけでなくオフがあれば、よくサプライズとしてコウキたちのイギリスのライブにも、彼女はお忍びでやって来ていて、コウキたちを驚かせた。
やはりコウキのベース音の振動だけは、ユイに伝わる様で、久々にその感覚に彼女も喜びを噛み締めていた。
そして二年後。
コウキとユイは同棲を始める。
一緒に居られるとユイは喜び、コウキもこの幸せを嚙み締めていく。
休日は二人で料理したり、買い物したり、その辺のカップルと変わらない生活を送っていた。
それからしばらくして、ついに二人は結ばれる。
結婚をしたのだ。
各関係者からは祝福されたが、世間からはミュージシャンと聴覚障害者の結婚を、あまり良い目では見られなかった。
だがそんな事、二人の間には関係なかった。
二人の歩んできた道なんて誰も知らないし、これからも知られる事なんてないだろう。
人の噂も七十五日というが、一ヶ月もしないうちに、マスコミは違う報道に移り変わっていた。
ユイは妊娠し、子供が生まれた。
女の子だった。
小さな命を目の前にした彼女は、コウキにプロの画家として一線を引くと、事実上の引退を突然宣言した。
ユイ曰く、この娘は私とコウキの誰にも真似出来ない作品だと、これ以上美しいことがあるだろうかと。
ユイらしい決断だった。
これから、コウキとユイには、苦難の道が待っているかもしれない。
しかし、そんな事は御構い無しだ。
彼ら夫婦の絆は、訳が違う。
結婚する時に、コウキは心の中で誓った。
これからも、ユイに音楽を捧げる。
彼女との出会いがなければ、ここまで来れていなかった。
耳が聞こえなくても、それが自分の正直な気持ちだ。
生まれてきた命にも、精一杯の愛情を注ぐ。
二人の愛の結晶なのだから。
ユイが辛い時、悲しい時があっても、必ず僕が
例えそこが深い深海であっても、僕が彼女を照らし続ける。
ユイが与えてくれた、あの絵画の様に。
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