第6話午後の予定

――今、僕の目の前には約249人の姿が…どうしよう、すごく緊張する…あ!この状況あの時と似てるな…。父さんが『新型マギア』を発表してた時と…同じ。今考えると、父さん…これ以上の人の前で話してたんだ、凄いな…。


僕は口から心臓が飛び出してしまいそうになりながらも、何とかこらえ…震える唇を動かす。


「は…初めまして、『ハンス・アンデシュ』と言います。出身はジャパニ王国のグッドラックウェルです。趣味は…寝ること、得意科目は一応…魔法工学です。1年間よろしくおねがいしましゅ!」


――最後の最後で噛んでしまった…どうしよう、恥ずかしい。


「だ、そうだ!皆覚えてやってくれな!ハンス君ありがとう、それじゃあ、自分の席に戻ってもらっていいよ」


「は…はい」


――は…恥ずかしかった…。僕はもう、これ以上の人前で話すことは2度と無いだろうな。


僕が自己紹介を終え、数分経ち誰もマギアに触れなくなった。


「この様子から見ると…全員、自己紹介文は書けたみたいだな。それじゃあ!この後は自由に行動してもらって構わない。好きな部活、好きな教科の先生、友達作りなど頑張ってくれたまえ。もちろんそのまま帰るのもありだぞ、家に帰って自習でもしていた方が後々楽かもしれないしな…それじゃあ、解散!」


フミコ先生は最後に笑顔を見せた。


「は~、この後どうしよう…。リーフはどうせ『学校中の先生にあいさつ回りをしに行くんだ!』とか言いそうだし…。僕、別に入りたい部活は無いし、好きな教科の先生なんて…」


僕は午後の予定が決まらぬまま、自分の席に突っ伏していた。


「あの~、ハンス君…だよね」


「!」


僕に話しかけてきてくれたのは、さっき会った桜色の髪をした彼女だった。


「そ、そうだけど…何かようですか?」


「いやいや、用ってわけじゃないんだけど…この後暇?」


彼女は目元を隠す細く短い髪を手の甲で耳に掛けながら、午後の予定を聞いてきた。


――何だろう…凄くドキドキする…。


「いや…ちょうど、この後どうしようか考えてた所なんだ」


「ほんと!良かった~実は私、この後どうしてもやりたい事があるんだけど。どうしても1人じゃできなくて…その、良かったらこの後付き合ってくれない?」


つぼみだった桜が一気に開花したかのような笑顔を見せ、僕に近寄ってくる。


――『付き合ってくれない』…なんていい響きなんだろう、そんな言い方をされては僕が断れるわけないじゃないか…。


「ああ、勿論いいよ。それで、やりたいことって?」


「うん!私、『模擬戦』をやってみたかったの!」


「も…模擬戦…」


可憐な彼女からは予想もできない言葉だった。


――いやいや…そこはこの学校を一緒に見てまわろうだとか、部活動見学だとか、そう言ったことを予想していたのに…。まぁ、僕には程遠い夢だってことですね…。


「私、このマギアを早く使いこなせるようにならないといけないんだ。だから、どうか私の相手をしてください!よろしくお願いします」


そう言って彼女は僕に頭を下げる…


――何だろう…凄くいい香りがする、やばい!変態みたいだ僕。


「い、良いけど。僕…凄く弱いよ」


――事実だ…僕は学園中どの生徒と戦っても負ける自信があるほどに弱い。


「大丈夫、大丈夫!たとえ弱くても、相手が居ると居ないとでは全然練習の質が違うから!」


「は…はは」


――彼女の瞳はやる気満々、ここで『やっぱりやめときます』…とは言えないよな。ダサすぎて…。


「じゃあ…マギアを使える場所に行こうか…」


「はい!さっき学園の地図をマギア内にあるアプリで見ましたから、すぐに迎えますよ!」


――あらまあ…準備が速いこと。


僕たちは、『マギア訓練施設』なる場所まで歩いて行くことにした。

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