第10話 個人ダンジョンと試行

 ダンジョンをどこに作るか、作らないのか? それが問題だ。


 簡単そうだけど、大問題だな? 


 個人で土地でもあれば簡単なんだが……。

 考えをまとめながら風呂から出てくると、かわいいフレイヤに並んで、かわいくない猫もどきが悶えていた……。


 カチューシャの耳と尻尾……。

 結局付けたのか。フレイヤに魔石をあげてなでる。

 ごろごろと鳴き甘えてくる……。

 うーんかわいいやつめ。


 おなかをなでなですると、ぺろぺろと人の手をなめてくる、頭をガシガシとしながら耳の付け根をすりすりする、プルプルと頭を振り頭をすり寄せてくる。


 うーん心が落ち着く、やっぱりこういう時間は必要だな。


 冷蔵庫から、ビールを出してグラスに注ぐ、テーブルの上に結構でかい有名通販会社の箱がある。なんだよこれ、邪魔だな。

 中の明細を見ると……なんだ? 神崎美月ってだれだ。


 ぶつぶつ言いながら明細を見ると、さっきの耳付きカチューシャや尻尾。そのほかにもとても人に言えないような、道具やおもちゃが購入されていた……。


 あれだけこわいとかなんだと言って、結局自分でそれ用の趣味の物を買っているんじゃないか。偽名まで使って俺の部屋宛で……。 

 間違って近所に配達されたら表を歩けなくなるぞ……。


 よし分かった、見なかったことにして、そっと蓋を閉じクローゼットに押し込んだ。


 左手でフレイヤを撫でながら、ゆったりとビールを飲む。

 スマホで地図を眺め、なるべく目立たず人の来ない場所…… でも、それだと逆に目立つのか。それに平らな地面に作ると、あのボスモンスターのように水没は嫌だしな…… 山の法面が一番いいが…… うん? ダンジョンは入り口だけで、中は別空間だよな。じゃなければ、地下数十階なんて地下鉄や下水道に突きあたるはずだし……。


 このマンションは、賃貸だから壁はまずい…… 空間に直接、こんな感じか? ダンジョンマスターの能力を読み取りながら試行錯誤をする。ああ空間でも、やっぱり創れるが、地球の自転もあるし無駄な魔素を消費すると……。


 何かいい物がないかと部屋を見回し、目の端に入ったじたばたしているのは無視してベランダに向かう。そこにある、ベランダに出るドアが目についた。ふと思いつく。ドアノブを回せば外に出られるし、そのまま突っ込めばダンジョンで良いかな。


 早速、ダンジョンを作製する座標を、ドア表面にして擬装用の魔法をかける。 中に入り、広さを8畳程度にして、壁が土なのはいやだからガラス質の白。全面白だと落ち着かんな。物を入れれば大丈夫か? 天井は光るようにして、スイッチは能力で可能と、床暖房は…… できるな。


 これ結構快適だな。ワンルームに引っ越して、ダンジョンで拡張するのもありだな。


 室温もいじれるし冷蔵庫ももういらんな。こっちにユニットバスじゃない、でっかいふろ場も作って、ダンジョン温泉の出来上がり。 水の排水は…… 謎空間へ捨てられるじゃん。あいつ何でおぼれていたんだ? うん? ああ、この水は元が魔素なのか。同じように飲めるし使えるけど、物質の根源が違う。普通の水を魔素に変換できないことは無いが、そのための魔素が余計に必要で効率が悪いと……。


 なるほどねぇ。さらにダンジョン内に机は作ったが、椅子は焼き物のベンチの様で座り心地が悪い。持ち込みだな。

 それと空間が違うためか、無線LANが使えない。

 無線ルーターこの部屋まで持ってくれば大丈夫かな? コンセントも欲しいし明日ちょっと買い物に行って…… もういい加減に魔石の買取もしてもらわないと、いっぺんに行くと目立つし税務署も怖いな。


 それと、ラノベのダンジョンのボス部屋ようには、扉がきれいに作れない。木のようなものを俺がきれいに想像できないのが悪いとは思うが、蝶番もなんとなくイメージが甘いようで、きれいに開け閉めができない。

 ホームセンターにでも行って、みてくるか買ってきた方が早いかもしれない。

 後日、ある程度隙間がないと開かないことを発見。 扉は円軌道で動く、ぴったり合わせるとドアの角とドア枠が干渉するため開かない。なんということでしょう。今度DIYの本を買おう。


 そうだ、

「クリエイト」

 プロセスプレートが目の前に現れた、よし使えるな。

 当初の目的を忘れるところだった。


 よしよし、その時。少し俺は浮かれていて、大事なことを忘れていた、ダンジョンを作り始めてゆうに3時間以上……。


 ダンジョンから出て、すぐに異変に気がついた……。 ああ電波が通じないからな……。

 蒼い顔をして、家の中をゾンビ状態で徘徊している美月を発見。

 さすがに悪いと思った俺は、創ったダンジョンに入場許可を出した。入口で空間が違うため、越える許可が設定できる。


 ただまあ、こうなるよね。

「ねえ 一司くん、普通の人ってこんな物は作れないよね」

「ああまあそうだな……」


「説明はしてもらえるのかな?」

「お前に説明すると、ぽろっと言いふらしそうだからいやだ」

 ちょっとにらむ。


 びくっとして、覚えがあるのか目が泳ぎ出す美月。

「そりゃ少しはそんな所はあるけど、大事なことは漏らさないよ~」

「いや、その全力のバタフライみたいに、盛大に泳いでいる眼は全然信用できない」

「どんな目よ」

「そんな目だ」


 よよよ、と泣き崩れるふりをするが、

「はぁ~ 信用がないなぁ~」チラッ

「悲しいなぁ~」チラッ

 とまあ、信用できない。


「自分の欲求だけで知りたがっているようだが、これが知られると命の危険があるって分かっているか?」

「まさかぁ」


 お気楽そうな返事に、脅しをかける。

「俺の力を使わせるために、お前を誘拐するなんて当然考えられるだろう」

「そんなにすごい力なの?」

 怪訝そうに、聞いてくる。


「あの部屋を見たはずのお前が想像? とか理解できないような力だ。そんなにすごい物なの。だから詳細は教えない。知らなければしゃべれないだろう」

「そりゃそうだけど…… けち」

 と言ってふくれっ面をする。


「基本的なところで、自分が抜けているのを自覚しろ」

「ひどっ、一司くん嫌い」


 俺は、にへっと笑い、腕を横に上げる。

「そうか、玄関はあっちだ……」

「いや…… 一司くん大好き…… あっこんな時間、何か食べたいものある?」

 あたふたと、ごまかしながら動き出すが、いい加減服を着て尻尾外せよ。広がって戻らなくなるぞ。


「いやほんと。下手すると世界中のダンジョン創ったのが、俺だなんて勘違い認定されるような力だからな……」

 台所に向かっていく美月に、俺はぼそっとつぶやいた……。

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