朝顔

黒咲蒼

第1話

 家に帰ると暗く、妻の靴がなかった…


 きっと僕の昔から変わらない性格に愛想をつかせて何処かへ行ってしまったんだ…


 もしくは、部長とかに付き合わされたクラブの名刺でも見て勘違いしてさっていってしまったのかな…



 どちらにせよ


 もう僕の元に帰ってくることはないだろう…


 あの時と同じで…


 昔の何も変わらない同じ君に再び会うのは、もうないだろう…


 そう、思いながら家の中に入って行くと、机の上に置いてあった、紫陽花の花たちを見て、彼女のことを思い出した………





『紫陽花の花言葉は、青は辛抱強い愛情、ピンクは元気な女性、白は寛容とかそう言う意味があって、全体では、移り気、浮気、無常なんて意味があるんだよ」



 俺がまだ小学生の頃彼女は中学生で、僕よりいろんなものを知っていた。


「なんだか、あんまり良くない花言葉ばかりだね」


 そう僕は、思ったことを口にしていた。子供の頃なんて、みんなそうだ、考えなしに発言する。


「そうね。あんまり良くない意味ばっかりかもね。良い意味の花か…あ!朝顔なんてどうかしら?」


 そういい、彼女は僕の絵日記の1ページを指差した。


「朝顔の花言葉わね、赤が儚い情熱的な恋、ピンクが安らぎ満ち足りた気分、青が儚い恋、短い恋、紫が冷静、平常って意味だね」


「あんまり変わらないじゃん!」


 そういった僕に彼女は、


「いや、全然違うよ。何かの本か漫画で読んだけど、『恋する乙女は無敵』らしいのよ!女の子は恋をしてる時がとても美しい。それは、たとえ叶わなくても…」


 と、少し悲しげな表情で言ってたように、数年後の俺は思うだろう…。



 そんな彼女が僕は…





 彼女はその後、僕が中1から中2に上がる時高校受験をし、一人暮らしを始めた。


 だから、しばらく会うことはできなかった…


 再会したのは、僕が友人と隣町の水族館に行った時だ。


 暑い夏の日、ちょうど朝顔が咲きそうな夏の真ん中のある日。


 水族館であった彼女は…





 僕の記憶の中にある彼女とは似ても似つかなかった。





 中学までの彼女はいわゆる「文学少女」という感じの雰囲気、服装だった。


 しかし、水族館にいた彼女は肌の面積の方が広いまるで「〇〇」のような格好だった…


 そんな、情報が目に入り頭で処理される頃には、僕は彼女の隣にいた男を殴り飛ばしていた…。


 その時友人が、僕が怖い顔で、


「僕のお姉ちゃんを返せよ」


 と言いながら、馬乗りで男の顔面を殴っていた。


 と言っていた。




 その件で、僕はしばらく学校を休むことになった。


 まあ、当たり前だ。


 不祥事なんて普通に停学、最悪退学もんだ…


 でも、幸いにも色んな成績の良かった僕を学校的に捨てたくないようで、停学でおさまったらしい。



 その後、彼女と会うことはなかった…



















 会うことがなかったら、どれほど良かったか…。


 最後に彼女と見たのは、いや、最後の一回前に彼女に見たのは、俺が大学生になり、ちょい悪なやつのSNSの投稿で、彼女の…



 いや、もう彼女は僕の知ってる彼女ではない。


 俺が見たのは、SNSに××の写真や、首に腕を回され喜んでいる投稿をあげている。〇〇野郎だった。


 その数日後、俺は彼女に会った。


 理由は「なんでもする。お金がない。アレがなきゃ私はダメになる。お願い。なんでもするから。」


 ということだった。


 俺は静かに「失せろ。俺はテメェなんて知らねえ」


 そう言った。



 それが彼女の心に与えたダメージはきっと計り知れなかっただろう…







 僕の好きだった彼女はもうこの世からいなくなり




 俺は、そこで、「彼女」のことは、忘れた。




 そして、その再会から数日後…















 彼女はこの世からいなくなった。





 亡くなった時は悲しかった。



 でも、それ以上のことは特に思わなかった。


 そして、数年後に俺は、企業に就職してバリバリ働き、過去から学んだ、しっかり欲しいものには素直に気持ちを伝える、ということを実践し、妻が出来た。


 俺は大切に、妻を大切にしていたけど、




 妻は俺の前から消えた。





 きっともっと、彼女に愛をしっかり伝えておくべきだった…。




 そうすれば、彼女は……







 ガチャ






 ドアが開く音が聞こえた…

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朝顔 黒咲蒼 @Krosaki_sou

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