第6話
川辺に置いてきた火炎キノコはまだまだ燃え続けていたが、あんなもの手に取って持って帰れるわけでもない。
拠点に戻ると新しい火炎キノコ+を取り出して、焚火ポイントへと置いた。
魔力を流すと、すぐに火柱を立てて、しばらくすると落ち着いた火力を提供してくれる。
火をつける手間が消えたのは本当にありがたい。
木の枝にさしたグロめの魚を二匹、火の回りでじっくり焼いていく。
マツタケ+も一本半分に割いて、一緒に焼いていった。
焼きあがるまでの間、拠点の近くにある、程良い大きさの木を見繕う。
今いる拠点は広めのスペースがあったので、ここに居を構えているが、それでも木がまばらに生えていてちょっと邪魔である。
特に邪魔だった一本に、新しく覚えた魔法を使ってみる。
既にほとんどMPがないので、あまり失敗はしたくないが、とりあえず試してみよう。
植物素材化の魔法を木に使ってみる。
光に包まれた木が、一瞬でそこから姿を消して、地面に根っこが張ってあっただろう部分に穴がぽっかりと開いた。
その穴の隣に、太い木材、細い木材が4本、木の皮が現れる。
おおっ、素材化に成功したぞ!
MPもそれほど消費しなかった。
できた穴は生活の邪魔になるので、辺りの土で埋めて平らにしておいた。
素材のゲットに成功しただけでなく、拠点まで広くなるとはなんとありがたい魔法か。
出来上がった細い木材と木の皮はさっそく使っていく。
そういえば、細い木材が4本も出来上がったが、木の枝からこんなしっかりしたものが取れるとは思っていなかった。
もしかしたら根っことか、細い木の枝は合算して素材化してくれるのかもしれない。だとしたら、なんとも気の利く魔法じゃないか。
木材は結構しっかりしたもので、以前の俺ならこれを運ぶのも苦労していたのだが、今だと結構楽々と運べた。
サバイバル生活で体力が付いただけが、理由ではない気がする。
そんな次元では語り尽くせないほどの手軽さなのだ。
ステータスだな。
そこに結論づく。
攻めのステータスが伸びていたから、そこらへんの数値が筋力に影響を与えているのだろう。
地面に穴を掘り、そこに細い木材を差し込み、土でしっかりと埋めていく。
場所はハンモックの隣辺りにした。ここらは日当たりがいい。
土台となる4本を植えたところで、木の皮の加工に入る。
木の皮は、それ自体を植物操作して、細く、長く加工していく。
出来上がったものを縦横に組み合わせて格子状して、形を整える。
木の皮で作った格子状の一枚を、先ほどの土台の上に乗せた。
内蔵を取って開いておいた魚をそこに乗せていく。
空気の通りもいいし、日も当たる。
上手に干物ができるといいのだが。
なにせ経験がないのでうまくいくかわからないが、やれることはやっておいた。
そんな作業をしていると、焚火から脂の焦げるいい匂いがしてくる。
作業長もちょくちょくひっくり返していたゲテモノ魚がいい具合に焼けてきた。
香ばしい匂いが漂ってくる。
席に座り、まあ地面の上なんだけどね、魚の頭から食べていく。
まずは触手だ。少しぶよぶよしていて、あまり肉はついてなかった。コラーゲンの類なのかな。
次は普通の魚にはないであろう、脚!
われながらよく怖い部分からいけるなと思うのだが、お腹が空いているので無敵だ。
脚の肉は普通に魚肉だった。
脂もしっかりのっており、新鮮でとてもうまい。
すぐに平らげてしまった。脚がなぜ4本ないのかと文句を言いたくなるほどのうまさだった。
次に胴体、メインとなる肉づきの良い部分だ。
腹、背中、尾びれ付近とかぶりついていく。どこも違った味わいでうまい。
脂身の多い場所、身が引き締まっている場所、尾びれのわずかな肉も、うんまいうんまい!!
ウサギと違って、こちらはすぐに一匹平らげた。ちいさいからな。
細かい骨が少なかったのも食べやすかった。
「もう一匹あるんだよなー」
これが。
多く釣っておいてよかった。こんなにうまいとは。
ゲテモノはうまいと教えてくれた先人には感謝したい。
触手は一番味がしないのだが、最初に食べていく。
美味しい部分は後に食べたい派である。
ということは、次に食べるのは胴体だ。
ここは肉が多くて単純にうまい。お腹にたまるし、食べ応えがある。
最後に、普通の魚にはない脚の部位。若干カエルの足にも見えてきたが、そんな想像は誰の特にもならないのでやめておこう。
手に持って肉をしゃぶりつくした。
あまりにうまい。結構お腹が膨れてきたというのに、圧倒的な旨味。A5の黒毛和牛とかに匹敵するんじゃないだろうか。食べたことないんだけどね。悲しいことに。
「あー、うまかったー。しあわせだー」
空を見上げて、綺麗な星々を眺めた。
空に触手魚の顔が浮かぶ。うまさをありがとう。
新鮮なうちが一番うまいんだろうけど、干物のほうも楽しみだなー。
この世界にきて食ばかりが楽しみなんだが、その食が本当に楽しい。
最後に、締めでいつものマツタケ+を食べようとしたとき、藪がガサゴソと音を立てた。
足音も聞こえた。
何かが俺の拠点に向かって近づいてくる。
今は夜だ……。
毒キノコが食べられるのはいつだって夜。
魔物か!?
慌てて立ち上がった。
交戦、交戦の構えを取らなければ!!
何をしたらいい!?
植物操作で時間を稼ぐか?退散して貰うことを願って?
いや、違う。毒キノコ+だ。それも即効性がない可能性がある。
火炎キノコ+だ!!
あれなら直接的なダメージを負わせることが出来る!ひるんで逃げてくれたらなおの事良し!
すぐにハンモックに向かっていこうとしたところで、藪から先にそいつは飛び出してきた。
戸惑ったぶんだけ、初動が遅れてしまった。
絶体絶命だ。
「ニャッ?」
藪から顔をのぞかせたのは、頭の上に猫耳を乗っけた可愛らしい女性だった。
大きく魅力的な目は、瞳が猫目のように縦に長い。
コスプレ少女かとも思ったが、ここは異世界だ。
彼女は、獣人というやつなのではないか。
藪をかき分けて、彼女が俺の拠点に入ってきた。
頭の猫耳と猫目意外は人間だ。スタイルが良く、運動神経が良さそうだ。
背中に大きすぎるバッグを背負っているので、やはりかなり力と体力があるのだろう。
俺はまだその存在に戸惑っていた。
「いい匂いと明かりが見えたから人がいるのはわかってたけど、新手の変態かにゃ?」
変態?
彼女の視線で気が付いた。
今の俺は、川から上がった時からずっと全裸だったのだ。
彼女は俺の下半身のキノコを見ている。
まじまじと見るのもどうかと思うが、気恥ずかしくなって慌てて下着とズボンをはいたのだった。
シャツも着て、彼女の方を見ると、天日干しにしようとしているゲテモノ魚を見ていた。
食い入るように見ている。
ぐー、と少し大きめのお腹の音が鳴る。
俺ではない。猫耳少女がよだれを垂らしながら、魚をキラキラとした目で見ていたのだ。
「……食べるか?」
「え?いいの?」
この世界で初めて出会った人間だ。いや、獣人か。
どっちでもいい、初めてコミュニケーションが取れる相手と出会って俺は興奮していた。
魔物だと思って恐怖していた気持ちはすっかり晴れ、今は猫耳美女との出会いに気分が高揚している。何から話そうか。
いろいろ話題はありそうだ。
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