自殺から始まる(モテてはいけない)ラブコメ。
渡貫とゐち
typeA:エンドロール
……妹が自殺をした。
学校の屋上からの飛び降りだったらしい。
成績優秀で、友達もたくさんいた。
だから自殺の原因がなんなのか、先生は当然、親も分からなかった……。
水面下でいじめられていた、という話もない……、同級生が隠しているかもしれない、という可能性はあるが、妹のクラスメイトも動揺を隠せていないのだ――。
裏でこそこそといじめていたのが原因で自殺をしたのかもしれない、と想像して怯えているのではなく、本当に、どうして仲良しだった『あの子』が自殺したのか……。
理由が分からないことへの戸惑いだった。
演技だったら大したものだが、演技ではないことをおれは知っている……。
だって、原因はおれだから。
……いや、たぶん、なんだけど……はっきりとこれだ、と言えるわけじゃない。
だけと直前に、妹の心を乱したのは、間違いなくおれなのだ――。
だって。
……義妹じゃない、実の妹からだ。
告白をされた。
おれのことが好きなのだと、妹に言われたのだ。
……当然、おれは妹のその気持ちを断った。おれは妹のことを『妹として』しか見ることができないし、仮に『彼女』や『恋人』として見たとしても、やっぱり、『お嫁さん』として見ることはできないのだ。
……兄として、断ったのは正解だろうし、おれの正直な気持ちだから、ここで嘘を吐き、受け入れると答えることは妹を騙していることになる……だから言ったのだ。
『ごめん、
『……うん、分かった、お兄ちゃん』
――その翌日のことだった。
妹の堪え切れなかった泣き顔に心が痛んだが、避けられないことだっただろう。
妹の笑顔を見たかったけど、傷つけた張本人のおれがどうこうできるものではない。
だから、少しだけ距離を置こう……そう思っていた矢先だった。
妹の笑顔を見ることは、二度と叶わなくなった。
妹は二度と、そのまぶたを開けることはない。
声を聞くことも。
もう一度、告白されることも、もうない――。
受け入れていれば、妹は死ななかったのか……?
おれが妹を、恋人にしていれば……?
――でも。
好きでもないのに一緒にいて、おれの中途半端な気持ちを一番、敏感に感じ取るのは妹だろう……、そっちの方が、自殺の原因としては高い気がする……。
おれにフラれたことで、衝動的な自殺をした――じゃあもしも受け入れていたとしても、じわじわと膨らむ罪悪感に苦しんで、それがパンクした瞬間に同じように妹は自殺してしまうかもしれない……。
結局。
妹が自殺をすることは、最初から決まっていたのではないか……?
「紗緒……」
遺体が燃えていく。
泣き崩れる母さんを支える父さん……、
おれは二人からそっと離れ、火葬場から出た。
もう充分だ。
妹から告白されたことは、墓場まで持っていく……。
誰にも、悟られるわけにはいかないから――。
ずず、
という冷たい感覚が、胸から伝わってくる。
「…………は、」
おれの胸から突き出ているそれは……、鋭利な、刃の、切っ先……?
「紗緒ちゃんの告白を断ったから――。
紗緒ちゃんは自殺をしたんじゃないですか? おにーさん」
「……そうに決まってる。
言い訳をするならすればいい――聞いてやる、最期にな」
刃が引き抜かれ、弧を描くように血が舞った……、
飛び散る赤い水滴が、ゆっくりと落下していくのが見え、おれの体が引き倒された。
仰向けに倒れるおれを見下ろすのは、巨大な鎌を持った二人の少女……。
……? 死、神……? にしか、見えないな……、コスプレかよ……。
というかお前ら、誰、だ……。
「あたしたちのことなんてどうでもいいでしょ。紗緒ちゃんの自殺はおにーさんのせいだってことが分かったんだから、じゃあ次にどうすればいいかなんて、予測がつくはずだけど?」
「……時間を巻き戻す……でも、アンタを中心にしたタイムリープじゃないから。アンタの今の意思が過去に戻るわけじゃない……。
だから、悪手を選べば同じように紗緒は自殺することになるだろうね」
過去に……、
やり直す……? でも、どうせおれは、妹の告白を、断る、ぞ……?
「記憶は持っていけないけど、気持ちは持っていける」
「アンタは紗緒の結末を知っているんだから……、壊れやすいガラス細工を持っていることを自覚して生活をするべきね……あんな可愛い妹に好かれているんだから……分かってるよね?」
「紗緒ちゃんの方も、開いた距離を縮めたいがために焦っただけなんだよね、実は」
「爆弾を爆破させたのはアンタだからな? ……だからやることは決まってる」
そして。
おれの意識は、ゆっくりと落ちていき……——、
『おにーさん(アンタ)にとっての唯一のモテ期だけど、がまんして紗緒(ちゃん)に構ってあげて(なさいよ)』
そんなセリフを最期に言われ、おれはそこで完全に、死んだ。
―― リスタート ――
嫌な夢を見た。
どういう夢だったのかは覚えていないが、これまでに見たどの悪夢よりも気分が悪い夢だったことは確かだ……。
無自覚に、胸を擦っていたらしい。
気になって服をめくってみるが、肌には傷の一つもついていなかった。
「――いってきます」
学校へ向かう途中で、先に家を出ていた妹を見つけた……、紗緒だ。おれとは二つ違い、高校一年生。入学したばかりの頃は友達ができなくて不安がっていたが、どうやら大きなグループに属することができたようだ。
おれのクラスに顔を出すことも少なくなった。一年生が三年生のクラスに顔を出すのは勇気がいるのだが、兄がいると抵抗も少しはマシになるのだろう。
紗緒は、だから三年生への伝言を頼まれることが多かったらしい。それも、夏休み直前になってくると、一年生も部活動やら委員会で上級生との繋がりもできるので、紗緒の活躍も減ってきてはいるのだが……。それでもまったくないわけじゃない。
まあ、紗緒がきても、おれに小言を言うだけで、伝言ではないのだが。
心配してくれているのか?
でも去年、一昨年は、紗緒がいなくてもなんでもできたんだけどな……。
「
登校して、着席するなり、そう声をかけられた。
「内容によるよ」
「じゃああるのね。ちょっときて」
どうして彼女がおれに? これじゃあ注目の的だ。
学校でも有名な女生徒に手を引かれ、教室から廊下に出される。
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