第二章

1 フレデリカ -婚約-

 朝起きると侍女から、エミール君が家に来ると言う予定を聞かされた。

先日言っていた婚姻の件だろう。行動が早い事だ。



 応接間へ向かうと、父上とエミール君がすでに座って話し合いをしていた。

「フレデリカ、来たか。こちらへ座りなさい」


父上に促され、礼をしてから着席する。

目の前に座っているエミール君は、心なしか顔が赤いような気がする。


「こちらのフィッツジェラルド公爵子息から以前から話は聞いていた。殿下と婚約が解消した暁には、フレデリカと結婚させてくれと前々から言われていたのだよ」


「えぇ……? 以前からですか?」

今までエミール君は、研究室の後輩としてしか認識していなかったので驚いた。

一体いつから父上に打診していたのだろう……?



「うむ。キャンセル待ちというやつだな。まぁ、よい。本題に入ろう」


 父上はテーブル上に置いてあった書類を、私に手渡し視線で見るように促す。

パラリとめくって書類を見ると、エミール君の実家であるフィッツジェラルド家の事業一覧、エミール君の経歴……等が書かれていた。


「エミール君が、以前持ち込んだプレゼンテーション資料だよ。これを渡されて、いかに自分と結婚すると得があるかどうか説明してきた。

ククク……、面白い青年だろう? まぁ、フレデリカは研究室でエミール君と一緒にいたから、わかっていたのかも知れないが」


 ほう……なるほど、父上が合理的な事が好きという傾向を知ってこの様な手段を取ったのだろうか。そういえば、エミール君は研究内容をまとめるのが上手かったことを思い出した。


私も書類にまとめてあると、理解しやすくて助かる。

パラパラと読み進めていくと、最後にエミール君の出身国でもあるヴィーヘルト公国の魔法工学研究院一覧が記載されていた。



「!!!!!! ち、父上……! この、最後の研究院一覧は、一体……っ!!」

「ハハハ……、エミール君の狙い通り娘は食いついたみたいだよ。良かったな」

「ええ、私に出来るのはそれぐらいですから」

エミール君は、にっこりと笑って私に視線を移す。


「フレデリカさん私と結婚していただけたら、勿論魔法工学の研究は続けていただいてかまいません。我が国の好きな研究院に入るお手伝いをいたしますし、なんなら自分の研究院を作っても……」


「結婚しよう! 今すぐしよう!!! 早く! 明日にでも!」

 食い気味に承諾する。


 あああ、なんという事だろう! 殿下と婚約をしていた頃は、結婚したら一切研究が出来ないという話だったし、それが結婚というものなのだと諦めていた。

しかし、それが! 結婚しても! 研究が続けられる!! こんなに幸せなことがあろうか、いやない。


エミール君は、天使か? 神か? ありがとう……ハレルヤ!


頭の中で天使が降臨して、ディスコホールで踊り狂っていると、父上からの一言で現実に引き戻された。



「ただし、条件がある」



「条件……ですか? 資料を見る限り、フィッツジェラルド家に嫁ぐのは、ローレンツ侯爵家にとっても事業に利があるでしょう?」

「あぁ……、利はある。でも、私は第一王子との婚約の件で反省したんだよ、フレデリカ」

「反省……?」


「第一王子との結婚は、家のためでもあるし、お前のためでもあると思っていた……。女性として最高の地位にさえつければ、幸せだろうとな」

「父上……」

「だが、フレデリカはそんな事に興味は無いだろう? 亡き母である、エレナがフレデリカを幸せにしてと言ってたんだがな……」


 父上は、少し目を逸らすとぎゅっと私の手を握った。


「エミール君には既に説明をしたが、エミール君とは仮婚約とする。」

「仮……ですか?」


「うむ。フレデリカがエミール君に、恋愛感情を持てたら結婚を許そう」

「れ……恋愛感情をですか……!?」

「半年以内にな。もし、恋愛出来なければ、エミール君とは婚約解消とする。」

「え、ええぇ……。私は研究さえ出来れば幸せなのですが……」


 これは、困った。今まで婚約者がいるからと恋愛を切り捨てて来たので、どうすれば良いのかが皆目見当もつかぬ……。


「フレデリカ……、私は王家と婚約を結ぶ事により、お前の一人の女性としての心を奪ってしまった。できれば自分で、この人とならと納得して結婚してほしいのだよ」

「僕もフレデリカさんに認めてもらえるように努力しますから!」


「わかりました……。よろしくお願いいたします。精一杯努力いたします」



 結婚して、研究三昧な毎日が送りたい! そんな自分の研究欲に釣られて

こうして、私はエミール君と恋愛を学ぶ毎日が始まったのだった。

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