15 エミール -文化祭2-
「ナサニエル様……これは、一体どういう事ですの?」
慌てて僕は、高性能の方の録画機を起動する。そのまま、姿を捉えたまま植え込みへとしゃがみ隠れた。
「ナサニエル様、説明してくださいましっ!……エヴァレット男爵令嬢を愛人になさるおつもりなのですか?」
怒りに震えながらメアリーさんが追求する。
「愛人などと……なんていう下品な言い方をするんだ!」
「では、ご説明頂けますわよね? 私、エヴァレット男爵令嬢とナサニエル様が腕を組んで歩いていらした所を見たのですけれども。それもこう、体を密着させて」
「それは、それはだな……」
ナサニエル君が狼狽して、メアリーさんと男爵令嬢の二人へと視線を彷徨わせる。
「わ、私は……エヴァレット男爵令嬢が足を捻ったというから、仕方なく腕を貸して……」
「へぇ……、ナサニエル様は回復魔法が使えましたわよね? 何故お使いになられないのです? それとも、そんなに怪我が酷いのかしら?」
そこに、バッと男爵令嬢がナサニエル君を庇うように前に出る。
「ナサニエル君は、悪くありません! 私が嫌がらせで足を痛めた所を庇ってくださったのです。それで、人目につかないところで回復魔法を……って!」
「そう、そうなんだ!」
「それに……、メアリー様こそなんで此方にいらっしゃるんですか? まるで私達がこっちにいるってわかってるみたいに……」
「貴女……何を……?」
「もしかして、さっき突き飛ばした人物はメアリー様ですか? それで、ナサニエル君に助けられたから慌ててこっちにやってきたんでしょう?」
「メ、メアリー……貴様……っ!」
ナサニエル君が息を吹き返したかのように、メアリーさんを罵り始める。
その様子は、全く持って醜悪極まりなかった。ナサニエル君も無意識的にか意識的にか、不貞まがいなことをしていたという自覚があるのだろう。その事実から目をそらすかのように、自分の正当性を主張していた。そこには、以前感じた知性を感じられなかった。
しばらく、じっと反論もせず聞いていたメアリーさんだったが、大きくため息をついた。
「もう、結構です。私が何を言ったところで、全て私が悪いことになるんでしょうね。この事は父上に報告いたします。婚約をまだ続けることになったとしても、私は今後一切貴方を愛する事はないでしょう。愛人を持つ事もご自由になさって?」
「な……っ! こちらこそ、貴様なぞ愛するものか!」
「さ、皆さま、帰りましょう。こんな男に関わるだけ時間の無駄でしたわね」
メアリーさんは、顔を真っ赤にしたナサニエル君を残して去っていった。
その後の二人はメアリーさんの悪口と、今まで虐めはメアリーさんによるもので、核心を突かれたからこう言ったのだろうとか話しながら、学院の中央の方へ戻っていった。
男爵令嬢は、「誰かが仕組んだことだ」と言ったような稚拙な説を以前も言っていた。
今回のナサニエル君も丸ごとそれを信じて乗っかるようにして、メアリーさんを責め立てていた。
将来国政に携わる殿下の側近が、このように何も精査もされない言い分を信じてしまうなど、あってはならない事だと思うのだが……。
これから、メアリーさんの実家ダウニング伯爵家はどのように判断するするだろうか。
もし、これを機にダウニング伯爵家との婚約が解消ということになってくれれば、第一王子殿下の勢力を削ぐ追い風として、フレデリカさんとアーネスト殿下の婚約解消の一歩になってくれればいいのだが……。
全ては、父親であるローレンツ侯爵が判断することである。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そうこうしていると、中央ステージのパフォーマンスが始まっていた。学院の中の使われていない教室に入って、そこの窓からステージの方を眺める。
パンフレットを見ると、殿下と男爵令嬢の出番はもうそろそろのようだ。ステージ横の舞台袖が此方からだとよく見える。緊張する男爵令嬢を殿下が励ましているらしい。頭をポンポンと撫でていた。
やがて出番になり、二人がステージに登場する。男子生徒は盛り上がっているようだが、女子生徒はさりげなく後ろの方に移動している。パラパラと目立たないように離脱しているようだ。
殿下のピアノが流れ、男爵令嬢が歌い出す。まぁまぁ上手いと思うが、ソコソコだ。殿下のピアノの腕もソコソコで、総じて可も無く不可もなくと言った結果になってしまっている。
微妙に盛り上がりが欠けるまま終わってしまった。男子生徒の拍手だけが響き、女子生徒はシラッとした目を向けていた。
この後は人気投票である。拍手の大きさで、優勝を決める。ステージ上に今までの参加者が集められ、順々に紹介され拍手していく。
途中七色の火を出し、その火で大きなサラマンダーの姿を作り出した女子生徒が大きな拍手を貰う。
その後殿下達の番となったが、男子生徒の拍手のみで優勝には届かなかった。
司会の生徒が「惜しくも届かなかった……!」とフォローしていたが、誰が聞いても段違いな拍手の差であった。
男爵令嬢は泣いているらしく、殿下に慰められていた。
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