マニュアル

奈那美

マニュアル

 バイトを、始めることにした。

新しい洋服を買いたいし、アクセも欲しいし。

スイーツも食べたいものがいっぱいあって、お小遣いだけじゃ全然足りないんだもん。

ママにお小遣いアップのおねだりしたら、『成績がひとケタ以内に入ったらね』だって。

そんなの地球がひっくりかえっても無理だっつーの。

 

 と、いうわけでバイトの面接受けて、無事に採用されたのがカレー屋さん。

お客様が注文した品物に対して『ご飯の量は大・中・小ございます』と『辛さはどうなさいますか』と辛さの段階が書かれたリーフレットを提示して決めてもらう。

そしてサイドメニューが要るかを確認して、最後に復唱確認して終わり。

難しい作業はほぼないし、注文そのものはポータブルに入力だから、間違いもない。

もちろん最初のうちは、ご飯の量や辛さの段階を聞きもらしてたけれど、慣れてきたこの頃は口が勝手に動いて注文を聞き取っていく。

中にはこちらから聞く前に、ご飯の量とか全部言ってくれる人もいるのでありがたい。

 

 そんなある日、老齢の女性を連れた3人連れが店にやってきた。

3人でメニュー表を見ながら注文の品を相談しているようだ。

老齢の女性は慣れていないのか、あれこれ指差しては家族に説明を受けている。

しばらくして、そのテーブルから注文の呼び出しがきた。

男性が注文をするようだ。

「いらっしゃいませ。ご注文はおきまりでしょうか」

『えっとね、このスペシャルカツカレーを、ごはん大盛りで、辛さは一番辛くしたのをひとつ』

「はい(あ、この人全部言っちゃう派だ。ラッキー)」

『それと、きのこカレーね。ごはん少なくて、辛さは一番辛くをひとつ』

「はい」

そして老齢の女性にメニューを再度確認した。

うなづく女性。

『あと、ご飯少なめで、ハヤシライスひとつ』

「辛さは、いかがいたしましょう?」

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