第7話 自己紹介だぜ

 無事俺たち二人は目的地の駅を降り、そのままバスに乗り換える。そして学校前のバス停で降りた。家から大体40分ぐらいかかったな。さあて、俺の可愛さで全員骨抜きにさせてやるか。軽く首を鳴らしながら、手を組む。組んだ手を裏返して腕を前に伸ばす。これでストレッチしながら登校する美少女の完成だ。見ろこのしなやかなポーズ!ダメ押しで可愛らしいあくびをして見せる。ちょっと朝弱いですよ感をさりげなく出しつつ、美しいスタイルを見せる。これがフェチズムというものなのだよワトソン君。するとたっくんは周りを見渡した後、俺に耳打ちしてきた。


「今あくびする時、鼻の穴大きくなってたよ、はっちゃん」


「?!?!」


 お前それはデリカシーっつうもんが欠けてるだろうがYO!あくびする時鼻の穴が大きくなる美少女なんて....ふむ、新たなる性癖を見つけてしまったかもしれんな。

それはともかく、ふつーにハズすぎる!!!一瞬で頬がカッと熱くなるのを感じた。


「まあ嘘だけど」


「?!?!?!」


 さっきの仕返しだと言わんばかりにたっくんはニヤニヤ笑いながらこっちを見ている。それ犯罪だぞ?嘘つき罪で捕まるぞ?!この裏切り者がぁ!絶対裏切りヌルヌル...。


 俺は伝説のハンターの名ゼリフを心の中でたっくんに唱えながら速足で校舎に入ってく。教室に入るともうほとんどの人が来てるみてーだ。席に座るとちょうど担任の鳩羽先生がやってきた。どうやら自己紹介の前に、体育館で中学の先輩たちと対面式なるものをやるらしい。全然内容とか覚えてないけど、なんかそういうイベントもあったなあと、懐かしさにひたってるとクラスメートが廊下に並び出した。俺もみんなについてく感じで廊下に並んで、そのまま昨日の入学式みたいに体育館へれっつごー。


 体育館に到着すると2、3年生はもう体育館で体育座りして待ってた。体育座りって地味に疲れるだよなあと思いながら、俺たち1年生は空いてるスペースに並んで、3年生と向き合う形で体育座りした。それで3年の生徒会長が先輩代表として挨拶して、その返答みたいな感じで1年の代表、新入生代表挨拶をしたアケガラスさんが挨拶した。体育館の高い窓から光が差し込んで、茶髪がキラキラと輝いている。アケガラスさんの返しの挨拶が終わったときに一瞬目が合ったような気がした。おいおい、俺の可愛さの覇気がどうやら漏れちまってたみたいだな。それを察知出来るとは、相当の実力者のようだ。美少女バトルマスターの血が騒ぐぜ。


 対面式はその後サクサク進行していき、校歌を歌い終わって(前世知識チートで校歌無双した)無事解散した。教室に戻ったらいよいよ本番だ。そう、自己紹介の挨拶がある。この日のために俺は過酷な努力も訓練も何もしてねえけど、最高にクールにキメてやるぜ。



 教室に戻ってきた俺たちは自分の席に座る。すると鳩羽先生が教壇に立ってにこりと笑う。おだやかそうな糸目をこちらに向けて話し始めた。


 「はい、じゃあ出席番号順で自己紹介してもらいます。名前と好きな教科、後はそうですね...将来の夢を教えてください。では、1番の方から」


 「ええっと、秋鹿 努です。好きな教科は社会です。将来の夢は...えーっとまだちょっとよくわかりません。一年間よろしくお願いします」


 前世ではクラス委員長を務めた秋鹿くんの自己紹介が終わると、先生が拍手し、それにつられてみんなも拍手する。俺もあふれんばかりの拍手を送る。うおお。ついに始まったぜ。てか、次の次じゃん俺。前世でこのクラスを見慣れてるとはいえ、ちょっと緊張してきたかもしれん。


「~です。好きな教科は~。よろしくお願いします」


 前の席の子の自己紹介が終わる。よし、ここはひとつ大人の余裕っちゅうもんを見せてやるとしますか!ガタリと席を立ち、俺は大きく息を吸った。


「よっ、よろしくおねがいしましゅ!!好きな食べ物はステーキでしゅ!!!よろしくおねがいしましゅ!!!」


 思いっきり頭を下げた後、俺は冷静に思考する。そう。何を隠そう俺は本番に弱いタイプなのだ!!!なんでこの中学に受かったか今でも不思議に思ってるぜ!!!

 

「うふふ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。名前も言ってくれますか?」


鳩羽先生が優しく声をかけてくれる。その優しさが染みまくる。


「いにゅやまだ はちやです!!」


 よし。今度はちゃんと言えたな。完璧だ。俺は胸をなでおろし、席につく。まあ今の自己紹介は120点くらいかな、100点満点中の。他のクラスの人たちはたくさん拍手してくれた。やさしい。隣のたっくんは必死で笑いをこらえようとしていた。おい!俺たち一緒に頑張ろうって駅で約束したじゃねえか!絶対裏切りヌルヌル...。


 俺の自己紹介が終わった後も、結構なハイペースで自己紹介が行われていく。どんどん進んで行って俺の注目選手の一人が現れた。


「鷹ノ宮 貴子と申します。好きな教科は音楽、将来の夢は総理大臣ですわ」


 出たわね。この子は鷹ノ宮財閥の正真正銘のお嬢様だ。金持ちとかはどーでもよくて、この子の良さはなんといってもその発育の良さ!おそらく身長はそこまで無いし、体重も分からんのだが、だが、しかしおっぱいだ。おっぱいの発育がメジャー級のホームラン王なんですわ。俺はちっぱいもでかぱいも愛する変態紳士だが、彼女のおっぱいには一目おけるものがある。そうおっぱいだ。おっぱいいっぱいなのだ。良いものをたくさん食べてこれからもすくすく育ってくれ。


「猿田 彦一っす。体育が好きっす。しゃっす」


 ヒコぉ!懐かしいな。俺とこいつは、はっきり言って相性が悪かったが、今となってはほほえましい感情でいっぱいだ。給食の残りのプリンを懸けた熱きじゃんけんバトルで掴み合いになったんは、今でも忘れてねえ。


 そんなことを考えてるとたっくんの番が来た。たっくんがこっちをちらっと見た瞬間を、俺は見逃さなかった。ついさっきの恨みだ!くらえっ!!これが日本が世界に誇る変顔、AHEGAO FACEだあああああああああああああああああああ!!!!


「ぶふっ....すみません。猫屋敷拓です。好きな教科は数学。将来の夢はまだ決めてません」


 ミッションコンプリート。ブラボー小隊はこれより帰還する。俺の勝ちだ。大きな拍手を叩いてやりながらたっくんが席に座るの見届けると、こっちをにらんできた。これが生きてきた経験の差なのだよ。俺と戦うには10年早かったな。


 よし、次の注目選手はっと。


「...鷲尾 葵です。好きな教科は国語です。将来の夢は会社員です」


 少し暗そうだったが、大丈夫だろうか。まあともかくこの鷲尾さんもかなり良いものがある。今は他の女子たちと変わらないが、この子は中3でかなりの成長を果たし、グラマラスな太ももとおしりを手に入れるのだ。かーっ!卑しか女ばい!


 鷲尾さんで最後だったのだろう。計30人の自己紹介が終わると、鳩羽先生が何やらたくさん紙を取り出し始めた。


「はい、それでは現在のあなた方の習熟度を測るために、テストを行います」


 そんなイベントあったっけ。だめだ。俺の特殊能力で、嫌な記憶がすぐ消滅する効果が脳みそにかかってるんだった。うわあ。どうしよっかなあ。抜き打ちテストなんて、ほーんと参っちゃうよなあ。元大学生の俺の学力をもってしても、まーじで、困っちまうぜえ。小学校卒業レベルのテストが、今からあるみたいなんだけど。ウワードーシヨータイヘンダー。


 勝ったな風呂入ってくる状態で完全に慢心していた俺が、この後のテストですぐ悲鳴をあげる事になるのを、まだ誰も知らなかった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る