第5話 中学校入学式当日なんだわ 後編

 だらしない感じで椅子に座った たっくんは訝しげに俺の方を見ていた。丸メガネごしに、じーって感じの目を向けられている。いやあそれにしてもたっくん。だいぶ小さくなってんねえ!まあそりゃあ最後に見たのが成人式の時だから全然違うのも当たり前なんだけどさあ!顔もかなり幼い感じだ。こりゃショタと言っても過言じゃねえな。懐かしいねえ。

 小学生の頃はたっくんを森まで引きずって蝉を乱獲したり、たっくんを川に強制連行して釣り勝負を挑みボロ負けしたり、某狩りゲーで俺が3回死んでクエスト失敗したり、その後某オフィシャルカードゲームでサンボル撃たれまくってガチ泣きしたりしたなあ。


「なに僕のほう見てニヤニヤしてんの。めっちゃ怪しい。そのケガ本当はどうしたの?」


「いやいやまじでコケたんだよ。お......私だって派手に転ぶ事もあるよ。河童も木から落ちるみたいな感じのアレだよ」


本当なんだからしょうがない。というか、自分の事今まで俺と呼んでたけど、よく考えたら今の俺は美少女だ。しかも美少女として産まれてから小学生までの記憶が俺にはない。3秒悩んだ結果、1番無難そうな「私」を使うことに決めた。


「それを言うなら河童の川流れか、猿も木から落ちるでしょ。なんで融合したんだよ」


 たっくんは困ったような顔で少し笑ったかと思うと手に持ったカバンを机の横にかけた。ん......。何かを忘れている気がするんだ。大切な、大事な何かを……。


「おーい!!このクラスに犬山田って生徒はいるか?!」


 ガラリというかもはやドガンッッてオノマトペが正しいぐらいの爆音で教室のドアが開く。現れたのはスーツを着た筋肉モリモリのマッチョマンだ。名前は確か.....思い出した!体育教師の豪力 羅門先生。中学時代かなり好きだった先生の1人だ。でもどうしてこんな所に現れたんだろう。前世だと一度も俺の担任とか副担任になった記憶はないんだが...。


「犬山田はいないかー!?」


「はっちゃん、呼ばれてるよ」


肩を叩かれて俺はハッとした。俺呼ばれてるんだったわ。


「はい、私が犬山田です」


 すっと立ち上がった俺はしゃなりしゃなりと美少女歩きをして豪力先生の前に美少女立ちをする。からの美少女上目遣い。これで3コンボだ。相手は死ぬ。


「おう!これが駐車場に落ちてたから渡しに来たぞ!」


 そう言って豪力先生からカバンを差し出された。思い...出した!俺あの時カバンぶん投げてそんままだったわ!


「ありがとうございます!」


ぺこりとおじぎをして豪力先生から受け取る。ムキムキの腕を見て、やはり力こそパワーなんだと感じた。


「む!その怪我はどうしたんだ!!大丈夫かっ!!」


「はい!転んだだけです!大丈夫です!」


「そ、そうか...。とにかく色々気をつけるんだぞ!」


 豪力先生はニカッと笑って親指をビシッと立てる。そしてそのまま教室を颯爽と去っていった。カッケェ...。真の漢という称号を欲しいままにしてやがる。


 カバンをもらって自分の席に戻るとたっくんが爆笑してた。


「駐車場にカバン忘れる奴初めて見たわ。はっちゃんはマジでドジだな」


「なんだァ?てめェ......」


 ドジじゃなくてドジっ娘だろがい!!俺は新たなるの属性を手に入れ、更なるパワーアップを果たしてしまうのだった。


 その後、俺の記憶だと担任になるであろう鳩羽 日和先生が現れて生徒の出席確認をとる。全員いたようなので、軽く入学式の流れをみんなに説明して、廊下に出るようにと促す。わちゃわちゃしながら俺たち1年3組は廊下に出ると、そのまま整列させられる。この後体育館にみんなで入って、そして入学式が始まるのだ。お、列が歩き出した。オラワクワクすっぞ。



 「新入生、入場」


体育館の後ろから、1番前のパイプ椅子に向かって俺たち新入生は歩き始めた。1組、2組、3組の順番で入場していく。そして、ついに俺の番が来た。気持ちはランウェイを歩くトップモデルだぜ。一歩一歩踏み出して行く。ここから俺の美少女中学生青春ライフがスタートするのだ。ふと強い視線を感じて横を見ると、母さんとじーちゃんがいた。母さんはこっちをちょっとにらんでて怖いぜ。じーちゃんは困ったように笑みをうかべてる。どうやら俺がケガしたって内容の連絡はあったみたいだな。じゃないと2人ともびっくりしてるはずだ。後でまた叱られるなーと思いながら、2人に目線を送りニヤッとして見せる。怪我してすまん。


 無事入場が終わってパイプ椅子に座ると、どんどん式が進行していく。国歌と校歌と新入生代表の挨拶以外、俺はボケーっとしてしまった。お偉いさんたちのありがたーい呪文に魂が抜かれたからしゃーない。きりかえてこっ。にしても新入生代表の子めっちゃ可愛いかったな。肩上で切りそろえたボブカットの綺麗な茶髪に、キリッとした眉と目が印象的だった。確か、あけがらす ちか…さんだっけか。漢字分からんけど、その名前覚えたぜ。決勝で会おう。美少女バトル世界大会のな。


 そんなこんなで式が終わり、クラスの担任発表があった。予想通り、俺たちの担任は鳩羽日和先生だった。優しい先生だった記憶がある。副担任は熊谷 光雄先生だった。この人も基本おっとりしていて優しいが、叱る時はかなり怖いギャップ萌えのおじさん先生である。でっぷりしたおなかが、一部の生徒に人気らしい。


 担任発表が終わった後は1年3組の教室に戻り、簡単な学校の説明が始まる。ここ、私立森羅中学校は地元だとまあまあの進学校で、俗に言う中高一貫校だ。とは言え、高校がある土地は少し離れた場所にあるんで見た目は普通の中学校とそこまで変わらん。そんな感じの事と学校の歴史を少し話して教科書が配られた。懐かしい教科書だ。うわこんなの使ってたなー。ペラペラめくってみると色々記憶がよみがえる。全部配られた後は名前書いて、バッグに押しこんだ。

 そしたらまたちょっと鳩羽先生が話したと思ったら、そのまま解散の流れになった。自己紹介とかは明日やるらしい。ふーっ。今日は色々あって少し疲れたわ。記念写真撮り終わったら、帰ってゴロゴロしてえ。


「入学式やっと終わったね、はっちゃん。だいぶ疲れてる?」


「ちょっとね。たっくんは元気そうじゃん」


「僕はだいぶ疲れたよ。さっさと帰りたい。人も多くてなんか吐きそう」


「確かに俺た...私たちの住んでるとこマジで田舎だもんね。車で30分走っただけの距離でこんなに違うんだね」


「......」


「どした?本格的に体調悪い?」


「いやそういう訳じゃないけど」


「あっ、たっくん!あんま時間とらせないから後で一緒に写真撮ろうよ!」


「え〜…卒業式一緒に撮ったばっかりじゃん」


「いいじゃないの〜」


「しょうがないなまったく...」


 やれやれと言った感じで、たっくんは席を立った。ラノベの主人公かよ。だがなんだかんだで断らないから、たっくんはすげー優しいやつだと思う。


 校庭に集合してたっくんの家族と写真撮ったり、母さんとじーちゃんと一緒に写真撮ったりした。帰りの車でしこたま母さんに叱られたのは言うまでもない。

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