BLUE◇×◇CAT
カピバラ
第1話【青猫】
「なるほど、つまり君は女の子にモテたいわけか。ふむふむ確かに君は女の子どころかヒトにすら好かれなさそうだ。顔に出ている」
「どんな顔だよ!」
口角を上げ腕を組む青髪の少女に見下された僕は、今現在世界で最も滑稽な存在だろう。
組んだところで大して寄るモノもない大平原を思わせる胸元。頭の猫耳にお尻辺りから生えた短めの尻尾。小さな身体は青いフード付きのワンピースにすっぽりおさまっている。
さておきだ。
まずはこの少女が何者で、どうしてこんな
時は少しばかり遡る。
と、語る前に僕の輝かしい経歴を。
某それなり大学を出て早四年、毎月コンビニのバイト代で気ままに暮らすフリーターだ。
親の金で通った大学を卒業後、某有名企業に就職したけれど一年で辞めて今に至る。
さておき、バイトを終えた僕は帰路につく。
そして何事もなく無事に自宅アパートに到着した僕が目にした光景だけれど、一言で言い表すなら空き巣被害に遭っていた。遭っていた、というか今現在進行形で空き巣られている。
……『あきすられる』って何だ。
ズルズルズルズル。チュルン!
「やぁ、来たか。お邪魔してるよ」
青いフード付きワンピースに身を包んだ少女は、それだけ言って再びラーメンをすすりだした。
ズルズル。チュルン!
「いや待て、お前誰だよっ!? ここは僕の部屋だぞ? け、けけけけ、警察を呼ぶぞ!?」
僕がスマホを取り出そうとする最中、動揺する素振りも見せずに少女は答える。
「ボクかい? ボクはネコ型ロボットの
「未来から……? 僕の、望み? ば、馬鹿にするのも程々にしろよ? ロボットだ? そんな人間みたいなロボットがあるわけないだろ!」
「事実なんだから仕方ないじゃないか」
「いいから出て行け! 警察を呼ばれたくなかったら、いますぐ!」
細い肩を掴み揺さぶると少し驚いた表情で僕を睨んだあと、すぐにラーメンをすすり出す。
ズルズルズルズルズルズル。
汁が顔にかかる。
「君の望みなら何でも叶えてやるって言ってるんだ。素直に喜べばいい。全く、飲み込みが悪いな。そんなんじゃ女の子にモテないぞ」
「こんのガキ、言わせておけば!」
「おおっと!?」
頭にきて思わず少女を押し倒した。持っていたラーメンは床に溢れてしまった。フードが外れ頭から猫耳の生えた少女の顔が露わになる。掴んだ腕は今にも折れそうなくらい細い。
「むぅ」
押し倒されたのにも関わらず、床に散らばってしまったラーメンを見つめる少女。どこまで僕を侮辱するつもりだ。
「で、次はどうするんだい? 女の子を押し倒したあと」
弓形に細くなる青い瞳。それはまるで猫のような、どこか不気味な瞳。僕は少女の身体から身を下ろし床に座り込んだ。少女はというと、ムクっと起き上がり僅かに残っていたラーメンの汁をすすりだした。あまりの行動に頭を抱えていると、少女はやれやれと——その猫みたいな瞳で僕を見つめる。
「信じるも信じないも君次第さ。ボクがロボットである事の証明が必要なら見せてもいいけど」
「……証明?」
「うん。ボクは人間の少女に似せて作られているんだけど、ほら、肌の張りも柔らかさも再現されていたりして、けれど生殖器だけは搭載されていないんだ。ちょっと待って、今見せるから」
「あちょちょちょちょ!? ワンピースめくって何してんだよ!? 見えちゃうだろ!?」
「わからない奴だなぁ。見せるためにめくっているんじゃないか。ほら、よく見ろ。何もないだろ? 本来ならここにマ——」
「あーーーー!」
た、確かに何もない。
あるのは年端もいかない少女の股間を見上げ無様に叫ぶ童貞の姿だけだ。
「信じてくれたかい? ボクが未来から来たロボットだってこと! えっへん」
胸を張る少女、以下、青猫はこの上ないドヤ顔で僕を見下ろしている。
「あ……あがんが……んが……」
「あぁ、なるほどな。君は真の童貞か。ホンモノの女子の秘部を見た事がないのか。それなら違いがわからないのも頷ける。すまない、ボクの配慮が足りなかった」
「頼むから謝らないでくれ」
どんどんペースを掴まれていくのだけど。
「よし、お詫びと言ってはなんだけど、君の願いを一つ叶えてあげよう。それがボクの証明にもなるだろう? そもそもボクはその為に来たんだから。多分。さぁ、君の叶えたい願いは何だい? 手始めに何でも叶えてあげるよ」
百歩譲ってこいつが未来から来たネコ型ロボットだとして、僕の知っているあの国民的ネコ型ロボットとは色々とかけ離れている。殆ど人間だし。言ってしまえば猫のコスプレした少女にしか見えない。
けれども、もし、本当に願いが叶うなら。
「じゃぁ、僕をイケメンにしてくれ」
数秒の沈黙。後、クスクスと笑い声。
「ふふふ、君が社会的にイケメンとなった世界のレベルが知れてるね」
「イケメンのレベルを僕に合わせるな!」
青猫は短い尻尾を振りながら考える素振りを見せ、僕に振り返る。
「なるほど、つまり君は女の子にモテたいわけか。ふむふむ確かに君は女の子どころかヒトにすら好かれなさそうだ。顔に出ている」
「どんな顔だよ!」
「イケメンになって彼女でも作るのか? それならもっと手っ取り早い方法があるぞ?」
「そうだよ悪いか! って、手っ取り早い方法?」
「うん。単純に彼女が欲しいと願う方が早いじゃないか。君は頭が悪いなぁ」
いちいち癪に触るなぁ。
「ええーい、なら、僕に彼女をくれ。出来るものならやってみろってんだ」
「おっけー、いいよ」
再び沈黙。後、両手を広げる青猫。
「なんだよ」
「はい、彼女だよ」
「は?」
「はぁ、察しの悪い童貞君だな君は。ボクが君の彼女になってやるって言ってるのさ。どの道これから同棲するわけだし、願いも叶って一石二鳥じゃないか。少し考えれば分かるだろ」
「待て、僕にも選ぶ権利はある」
「クスクス、鏡を見て発言することをおすすめするよ」
「ち、ち、ちくしょーん!」
あははは、いい声で鳴くね、でも君はそのままでいいのさ、多分ね。と、ご機嫌に笑う青猫は正直憎たらしいの一言だけれど——不覚にもその笑顔が可愛いと思った。しかし、
「せめて胸がもう少しあればな」
「……ひ、貧乳とか言うなぁぁーー!」
「言ってないだろ!?」
「言ったようなものじゃないか! 非モテ非リア充の童貞に選ぶ権利なんてないんだ! ボクで不満なら、他で捜せば? ふん!」
拗ねた。
ちょっとだけ、——ほんのちょっとだけ可愛いじゃないか。
こうして僕と自称未来から来たネコ型ロボットこと青猫の共同生活が始まった。
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