その1ー10【一閃、ドウジ切!】

 夕華の放った風は砲弾となり、使徒に向かって一直線に飛んでいく。

 実の【バリア】によって、風の砲弾が迫り来る前方以外の三方向を囲まれた使徒は、それを避けることは出来ない。


「おぉー、すごい。今のは良い連携だな」


 使徒は、夕華の魔術によって腹部を円形に抉り取られた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・暁人。あなたは戦わないんですか?そんな良いデバイス持ってるのに」


 同一とは言え、三つの魔術の同時展開。

 かなりの魔力、そして集中力を消費し、肩で息をする実が恨めしそうに暁人を見て言った。


「いや〜、俺は魔術士資格も持ってないしなぁ。それに、唯一使える魔術を使って戦おうにも俺の戦闘スタイルで一番重要なのは足だからなぁ・・・」


 未だ薄く包帯が巻かれたままの足を指差した。


「そうですか・・・」


「ま、そのうち見せてあげるから」


 まだ訝しそうな目で見てきていたので、そう言っておく。

 俺は【身体強化】しか使えないので中〜遠距離戦は不可能。それ故、俺の戦闘スタイルというのは必然的に近距離型となり、体、特に足を酷使する。足がこのような状態では、とても戦うことは出来ないのだ。

 まぁ、実はと言うとこの状態でも恐らくあの使徒の腕ぐらいなら切り落とせるが、決め手にはかけるからな。


「2人とも、今はそこまでにしておいてくれるかしら」


 その声に視線を使徒へ戻すと、夕華によって穿たれた腹部の穴も塞がり、まるで何事も無かったかのように立つ使徒がいた。

 あぁ、外れたのか。

 今までの{異界機獣}撃退記録で使われた魔術は、どれもこれも上位の攻撃特化型魔術。【ブラスト】もかなりの威力を持つが、これはどちらかと言うと吹っ飛ばすことがメインの魔術で使徒の撃退には向かない。

 実際、魔術を使った決闘競技などでも、攻撃を受けていた選手が相手との距離をとり、勝負を仕切り直したい時に、風属性魔術を使っているのをよく見かける。


「夕華、なんでもいいから上位の攻撃特化使えるのない?」


「いくつかあるけど、私の上位魔術はどれも範囲攻撃だから・・・その、恐らく暁人達にも被害が出るわ」


「あー・・・じゃあ、実。あれ、斬ってきてよ」


 その短刀で、と実のデバイスを指さすと「えぇ!?」みたいな驚愕の色を顔に浮かべて、ブンブンと首を横に振った。

 うーん、あと2分くらいなんだけどなぁ。


「ん?」


 使徒が手を大きく前に出し、床をえぐるように握りこんだ。そのまま体を引き、足を限界まで曲げる。

 突撃の姿勢だなぁ。と、思った瞬間には使徒はもう動き出していた。


 狙いは────────────あぁ、俺か。


 良かった、とも思う。

 この速さでの突進に、2人の目はまだ追いついていない。きっと、使徒が2人の方へ突進していれば、為す術なく壁とあの巨体に挟まれペシャンコになっていただろう。

 俺の現在のネックは、動けないこと、まぁ、ただそれだけだ。

 幸い、刀も手の中にある。俺なら、壁に押し付けられることはあっても、押しつぶされることは無い。

 ただまぁ、この距離じゃ巻き込んじまいそうだから2人には退けといてもらおう。


「きゃっ」


「なっ」


 突然、背中を押され、突き飛ばされた2人は驚愕の色を浮かべていた。恐らく、目が追いつき迫る使徒と、その狙いに気づいたのだろう。

 使徒との距離はあと2メートルもないぐらい。

 普通の人ならもうダメな間合いだが、俺ならまだ大丈夫だ。

 落ち着いて息を吐き、右手で[ドウジ切]の鞘を、左手で柄を強く握り、上下に引く。

 カチッ、と子気味良い音ともに鎺が抜け、抵抗がなくなった事で一気に刀身部分が現れた。


 綺麗だ。


 何千回と見た自分の刀、その刀身を、何千回見たとしてもそう思う。

 無神の家に何故か保管されていた、とある国宝級の巨大な魔石。うちの父親が取ってきた物らしいが、俺の魔術適性が判明すると同時に父がそのどデカい魔石を加工し、一本の刀に仕上げた。

 あの人めっちゃ器用で多才なんだよなぁ。

 その透明度を何かで例えるなら、クォーツの結晶が一番近いと思う。それほどの透明感だ。

 この透明感から、壊れやすいと思われがちだがそんなことは無い。魔石は硬い、ダイヤモンド以上に。そして魔力を通すことでさらに硬度が増す。俺はその辺の魔力操作はとてもとても上手なので、きっとこの先もこの刀身が折れることはないだろう。

 問題は柄の方だ。よく、握りつぶしてしまう。

 今回の整備も、前の戦闘で思わず握りつぶしてしまった事による物だった。完璧に修理されて戻ってきたが、さて今回は一体何週間持つのだろうか、ちなみに最速は2日だ。


 中心は、あの辺か。


 さて、{異界機獣}には核という物がある。

 奴らの身体の中心に存在する核は、奴らの弱点であり、核の破壊こそ唯一{異界機獣}を倒す方法なのだ。

 俺は、刀身を鞘に戻し、柄を左手で握ったまま鞘を握る右手を車椅子の横に出す。

 一応居合の構えのつもりだ。

 座りながら刀を構えるなんて、まるで雷神、立花道雪のようだとも思うが、あの人は神輿で俺は車椅子なので、俺の方は全く格好がついていない。

 現状、最も威力が出るのがこれか、もしくは突きだったのだ。

 居合を選んだ理由は単純で、突きだと一か八かすぎるからだ。こちらの構えだと、放てる斬撃は横薙の物であり突きよりも攻撃できる範囲が広い。そしてその範囲の中に核が1ミリでも被っていればいいのだ。


 ────────────今!


 使徒の体の半分以上が俺の間合いに入った瞬間、俺は刀を振り抜いた。

 先ほど鎺を抜いておいたので、驚くほどスルリと鞘から抜き放たれる白刃。入院生活で訛っているとはいえ、長年の経験は裏切らず、神速で空気を裂きその延長線上に完璧に使徒の体を捉えていた。

 スッ、と脇腹から入った刃は抵抗を感じさせることなく使徒の体を切り進み────────────


 グッ──────


「殺とった」
















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