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『ライブに私の推し友も一緒に参戦するから楽しみにしててね』
その言葉によって、今回のお誘いの詳細が予想通りだったことに緊張し、慣れない未来を案じる。
”推し友も一緒に観戦”ーー
正直それはそれで楽しそうだと思ったけれど、何しろ特定の人物にしか心を開かない私…。いや、そんなに気難しい人間でもないのだけれど。
事前に初対面の人と仲良くする施策を練ったとしても、無知な”推し友”となると相手のテンションを加味したところで、功を奏する展開が想像できないでいた。
『楽しみにしてて』だなんて、来夢みたいに可愛くて、初対面の相手ともフレンドリーに接することができる人間と同じ感性というわけにはいかないだろうな。
頭を抱える事案がもう一つある。
来夢の推しがいる男性5人アイドルグループ・
ツトムくん。タケシくん。トオルくん。アツシくん。
メンバー5人全員、信じられないくらい昭和感たっぷりの古風なネーミングがウケる。
だけど、来夢に見せてもらったアイドル雑誌の中に存在する彼らは、今どきの垢抜けた光り輝く美少年そのもので…。やっぱり紙越しでも緊張する始末。
そう。この、”顔が良すぎる”。そこだけが頭をかかえる要因なのだ。
私はイケメンが苦手すぎて、近づかれると緊張してしまう。だからできれば避けて通りたいイケメン街道。
今回は軽率な判断で、自ら近づく結果になってしまいそう…。
とはいえ、ただステージ上で歌って踊るイケメン達を観覧するだけなのに、大袈裟なことを言ってると自分でも呆れてしまう。
中学生の時のこと。クラスの女子(私を除く)が一斉に好きだと公言していた
彼はどういうわけか、告白されるたびに私を告白場所に連れ出して、断る口実にしていた。
『ごめん。俺、この子のことが好きなんだ。だから本当ごめんね…』
ほぼクラス全員からの告白を、コレで簡単に終わらせたのだから笑えない。
いつも協調性がない女子扱いだった私は、当然失恋の傷心から立ち直れないでいる他の女子から総スカン…なんて
彼女たちは私が”断る道具”にされていたことに気付いていて、逆に大丈夫かと気遣ってくれたのだった。
ある一人の女子が言った。
『告白を断るときに決まってセットで依ちゃんと行動するんなら、実際付き合ってないと説得力ないのに、バカだよねあいつ。依ちゃんが男子に興味がないってクラスの女子全員が知ってるって知らずに依ちゃん借り出してんだもん。二人見た瞬間
だから呼び出された場所に舞都くんと行ったところで、告白女子皆が眉間にシワを寄せて脱力気味になっていたのだ。
誘われるがまま、毎回面倒だと思っても、セットとして借り出されることに、仕事感覚というか、義務だと思って挑んでいた。
むしろ、タチの悪い興味本位だった。「日々の学生生活マンネリ化からの脱却」とでも言うとかっこいいのかな。
中学生にして”都合のいい女”だと気付いてからは早かった。
舞都くんを裏庭に呼び出し、アッパーカットをお見舞いしてやった。
こうして、私と舞都くんの偽装腐れ縁は終了した。
興味本位で話に乗った自分が
だけど幸いとでも言うのか、本来の気の強さも相まってしまったから、苦手とする男子にさえも怒りの矛先を向けること(アッパーカットお見舞い)は容易なことだったというわけだ。
この一件から、私はすべての男との接触を断固として絶ってしまった。
現在。推し友ーー。そう聞いて私はなぜか、一緒にMETEORの情報を共有し、少しだけ無理した笑顔で接することを余儀無くされるのだと、勝手に思っている。
答えは、どうなのだろう。自分に日々の変化をもたらすために、自ら近づいた勇気を
そして、私はこの時点で、先入観にとらわれていることに気付いていない。
推しメンーーそれを愛する者は、必ずしも…XXではない。
そのことに気付かなかったことが、今後の運命を狂わすきっかけになってしまったことは間違いないだろう。
はっきりとそのことに気付いていれば、私はきっとこのすべての勇気ある試みを受け入れるという以前の問題で、来夢の強制なる誘いであろうが、何が何でも断っていた。絶対に。
念を押すが、推しメンーーそれを愛する者は、必ずしも…XXではないのだ。
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