第15話 もっとこう、ここはこれくらいの大きさなのよ

「ぅあぁぁ〜っ、いだいよおおぉ」


「フィナさん、そ、そんなにひどい怪我はしてないのです」


「ほんとに?」


「本当なのです」


「レンガが頭にゴツンッて当たったのに?」


「ごっつんこしたのに、なのです」


「あんなに高いところから落ちたのに?」


「こんなに埋まっているのに、なのですよ」


 手で頑張ったところで空を泳げはしないのに力尽きたフィナはもう死んだとさえ思っていた。


 そんな醜態を見たモエは逆に冷静になって落ちてきた。


「レンガは……硬いけど重くないのです」


 ひょいと持ち上げた茶色いレンガをモエはお手玉みたいにして投げて遊ぶ。


 しまいには頭に落ちたのだが軽い音だけで衝撃はない。


「モエが……馬鹿力な可能性も──」


「ないのです。モエはか弱い魔法使い女子なのです」


 鉄球で壁に大穴開ける系の女子の言葉をフィナは今ひとつ信じきれない。


「それに、ここの砂は中の方はしっかりしているけど上はさらさらなのです」


 そのおかげで助かったのですよ、と身体をよじって抜け出したモエ。


 その下半身はウサギさんパンツと靴下しか履いていない。


「なんかスースーするのです──ってなんでっ!ええっ!モエのズボンっ!靴!」


 再び今度は頭から潜ったモエはさっきまでハマっていたところにそれらを見つけて喜び掲げている。


「見つけたなら早く履きなさいよ。そしてわたしを引き抜いて」


 モエのお尻に話しかけるフィナは二の舞にならないように予めズボンを掴んでおく作戦だ。


「じゃあ行きますよお」


「なんで履かない。生脚がひんやりしてドキドキするじゃないの」


 よいしょとフィナの脇に手を差し入れるモエの太ももがフィナの頭にフィットする。


「んっ……と。なかなか……フィナさんもダイエットするのです?」


「重いみたいに言わないでよ。ちょっとズボン押さえてるから抵抗あるのかも」


「なのです?じゃあ──」


 モエはしゃがんでフィナの腋の下に腕を肘のところまで差し込んで前でしっかりと手を組む。


「お、なんか嫌な予感が──ちょっとまって」


「どっせええええいっ!」


 気合い一閃、ズボォっと勢いよくフィナを抜いたモエは、持ち前の柔軟さを活かしてそのまま後ろにまで半回転する。


 いわゆるバックドロップというやつだ。


 見事にフィナを頭から叩きつけて今度は腰から下だけが真っ直ぐ地面から生えている。


「────!」


「ご、ごめんなさいなのですっ!すぐに、すぐに引っこ抜くのですっ!」


 モエはフィナの脚を脇に抱えて、全力。


 今度こそすっぽーんと抜けることの出来たフィナ。


「ぶはあっ、死ぬかと思ったよおお」


「ご、ごめんなさ──形のいいピンク色なのです」


「なに、なにがピンク」


 ズボンは守られた。


 けれど今度はシャツを下着ごと砂に飲まれてしまったフィナ。


「うああっ⁉︎なんでそうなるのっ⁉︎」


「で、でも私の方が大きいのです……ぶつぶつ……」


「ちょ、訳わかんないこと言ってないで探してよっ!生き残るにしても半裸とかいやよわたしっ!」


「そのときはも、モエが頑張って隠すのですっ」


 フィナとモエでまた砂の中を探って見つけた時には当たり前のようにモエが裸で嘘ではなかったフィナより大きいそれを震わせていたのをフィナが指差して笑った。


 喚きながら回収して2人はやっと落ち着くことが出来た。


「一応聞くけど、何作ってんの?」


「モエとフィナさんです」


 砂でオブジェを2つ作るモエ先生。


 しかしフィナにはどう見ても大小2種類の4つの山にしか見えない。


「こっちがモエで、こっちが──」


「こんなのっ、てええええいっ!」


「ああっ!モエのおっぱいがあっ」


 この緊急時に、とフィナは蹴り飛ばして大きい方のその高さを半分にする。


「もう、そんなことしてる場合じゃないでしょ。それよりも今は──」


 えぐれた山を悲しんでいるのかと思うとモエはフィナと呼んだ山の頂きに小さな頭をつけている。


「そんなにデカくないわよっ!」


「ああっ!自分のまでっ!」


 モエがピンク色と呼んだそれの大きさに過剰反応したらしいフィナは先生の作品を踏みつけて陥没させてしまった。




「ほら、立って。わたしたちは今は遊んでるわけにはいかないのよ。これから辺りを探索しなきゃなんだから」


「そう、なのです。まったく──ここはまだ危険なのですよ、フィナさん」


「なんでわたしが遊んでたみたいに言うのよ」


 砂を払い、立ち上がったモエとフィナはお互いを背にして周囲を警戒する。


 果てなく広がるかと思わせる砂原に人影を見つけたのはその少し後だった。

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