呪われた家

フィオー

第1話

 ねぇ聞こえてる?


 ……ねえ……ねえってば……。


 ……。


 ああ……良かったぁ、聞こえてるね。


 寝てるところごめんなさい……こんな時間にごめんね。


 ……もう時間がないの……今から来てほしいの。


 ……良い、始めるわよ……。


 ……。


 え? 声が……?


 ごめんね。こんなささやき声なのは、これが精一杯なのよ……。


 私がどこにいるって?


 ……。


 私、動けないから声だけ君の元に届かせてるの。


 ……私が誰って?


 ……わかんないの? この声、聞き覚えない?


 ……そう、わかんないか……。


 ……私は、君に殺されたカスミだよ。


 ああっそんな驚かないで。落ち着いて、私の話を聞いて、

お願い。


 ……そう、呼吸を整えて。


 ……。


 黙って聞け。


 ……。


 ……思い出してくれた?


 ううん、私、別に恨んでないよ。


 覚えてる? 私の死んだ日の事……。


 えっ忘れるはずない、ずっと心に暗い影を落としてた?


 そう? なんか楽しく暮らしてたっぽいけど……でも嬉しいな、きっと忘れてると思ってたから。


 ……ねぇ、お願いがあるの。私が死んだ、あの家に今から一度来てほしいの。


 うん、あのお化け屋敷の。


 2人で行った、あの……。


 ……そう……商店街の空き家……。


 ……うん、今から来て……。


 何でかというとね、私、あそこでずっと囚われたままなの。だから助けに来て。


 ……どういうことか聞かれても……私、わからないよ。


 ……助ける方法?


 そんなのカンタン、私の元まで来て、私を家の外まで引っ張ってってほしいの。


 私じゃ家のドアも何もかも開けれなくて、でも君ならできる。


 お願い、私を助けて……。


 ううん、ずっとこうやって君に声を届けて、私がどこにいるか伝えるから、私の言う通りに行動して。


 ……うん、ホント? 来てくれるんだね、ありがとう。


――バタバタ、バタバタ……


 ……慌ただしくさせちゃったね、ごめんね……。


 ……。


 着替え終わった?


 ……ヘッドホンしてるので歩くから20分くらい? ま、良いわ……。


――キィィ……パタン


 ……。


 今、外に出た?


 そうね、こんな時間でも外は暑いね……。


 懐中電灯は持ってるよね。


 うん、すぐ来て……。


 ……あれから2年だね。


 ……おい……殺すぞ。


 ……。


 君もなんか大人になったね……私は14才のままだよ。


 今度はカメラとか持って来ないでよ。


 ははは、前は君が幽霊を撮りたいとか言って、それで私を巻き込んだんだよね。


 覚えてる? あの家の事。


 ふふっそうだ。向かってる間、聞かしてあげる。


 何嫌がってんの。まえは君が自転車の後ろに乗った私に無理やり聞かせたんだよ。


 その仕返しだよ。


 ……良い?


 あの家はね、50年前建てられて以来30人が中で自殺してるっていうけど、ホントはもっと多いの。


 3年前の大学生グループ知ってる?


 ケータイのカメラで、伊藤さんが風呂場で切腹して、そのまま死ぬまでをずっと撮られててね。


 撮った人は脱衣所で首を吊ったんだ……。


 ネットで話題になってたみたいだよ。


 あの人たちの後、テレビの企画で来た霊媒師が言ってた。


 行方不明になってるみたいね?


 あの霊媒師とかいう忍び込んできたネズミは、どっかで生きてるわ。すっごくしぶとい人だもの。


 で、あの後にすぐ、安い家賃を目当てに来た怖そうな男の人が、リビングでヤスデをいっぱい食べて自殺したのが最後ね。


 ヤスデの青酸で死んだんだって、私、あの人気持ち悪い……。


 あの家の呪い……元々はね、あの家を建てた人は、凄く酷い人で、いろいろと犯罪行為もやってたの。


 奥さんが一番の被害者でね。


 あの人の浮気や散財を耐えて、虐待されるのにも耐えて、耐えて耐えて、ついに耐えかねて自分の首を包丁で突き刺したの。


 子供もいたけど、子供部屋で寝てるのを床に何度も叩きつけて殺して、タンスの中に死体を収納してからの自殺だったのよ……気も触れてたみたいね……。


 それからすぐあの人も、奥さんが死んだ和室の出入り口を封鎖して、雨戸も締め切って、中で餓死自殺したの……それ以来ね、あの家に訪れる人が皆、自殺するようになったのは……。


 ……何? 何よ、もうやめろって。


 ふふっ、怖がらせるなって?


 私が囁き声だから余計に怖いんだよって? はははははは。


 君、あの時の私と同じこと言ってるよ。


 私も自転車の後ろに乗りながら、君があの家の来歴を話すのを、耳を塞ぎながらやめてって言ってたなぁ。


 ねぇ、私が自殺した2階の寝室、場所は覚えてる?


 そうだよね、よくは覚えてないよね。


 私が案内するよ。


 そこまで来て。


 待ってるから。

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