35話 蜂の居場所③

「そっかぁ……呼び出し。私の事守ってくれてたんだ蝶野さんと、あの天道くんまで? ——それにしても今週の結城くん大忙しだね」

「他人事みたいに……まぁいいか」


 事のあらましを全て包み隠さず話した。二人の名前が出た瞬間は少し驚いていたが、全体を通して存外平静でいるのに少し驚いた。

 そんな思いが顔に出てしまっていたのか、笛吹が口を開いた。


「さすがに私も嫌がらせが急に止まったのには気づいてたよ? もしかしたら誰かが私の知らないところで助けてくれてるのかもって思ってた。それがその二人とはまさか思ってなかったけど、話を聞いてたらなんか納得しちゃった。……そっかぁ、蝶野さん私のこと好きなんじゃん。私も謝らなきゃだ」

「謝る……? そういえば、天道くんは蝶野さんのこと『誤解とすれ違いがあった』って言ってたけど、何があったかって聞いても大丈夫?」


 天道くんは具体的になにをしてしまったのか教えてくれたが、蝶野さんは抽象的なことしか言っていなかった。当然すべてを話す義理なんてないし時間の都合もあっただろうが、これからのことを考えると二人の間に何があったのか知っておきたかった。


「えーっと、一年のとき孤立してた私に蝶野さんが話しかけてくれてね、友達になろって言ってくれたの。凄く嬉しくて毎日楽しかった。でもしばらくしてそれが罰ゲームだったってのをたまたま聞いちゃって……今思えばそっちが嘘だったんだろうなって分かる。だから話も聞かずに蝶野さんを突き放しちゃった私にも責任があるなって」

「なるほど、確かに誤解とすれ違いか」

「天道くんの方も子どもならよくある事なのに、今も気にしてるなんて……凄くまじめだよね」

 

 確かに、と相槌を打った時、ちょうどポケットの携帯が振動した。俺の携帯にメッセージが来るなんて一瞬何事かと思い焦って携帯を取り出した。画面には件の天道くんからのメッセージが表示されていた。中々の長文で、内容をまとめると今日の謝罪と感謝が綴ってある。携帯の画面を覗き込んできた笛吹と二人してそのメッセージを見てあまりの丁寧さとタイムリーさに笑ってしまった。

 

「私、二人と友達になりたい」


 天道くんへの返信を打っている横で笛吹がつぶやいた。


「きっとなれるよ」

「他人事みたいに言ってるけど、結城くんは仲良くなりたくない?」


 聞かれて初めて考えた。自分とあの二人の関係……笛吹を守りたいと思っている同士、くらいに思っていた。でも、改めて思い返すと二人と話しているのは結構楽しかった瞬間もあった。状況のせいもあるが、人見知りが少し良くなっているのかもしれない。やっぱり俺も少しは変わっていたのかもしれない。俺と笛吹はやっぱりお互いを高め合える存在なんじゃないか。そんな空想を思い描かずには居られない。二人を友人にすることはその集大成のように感じていた。


「いや、仲良し四人グループを構想してるとこ」

「ぷふっ、いいねそれ。じゃあ、仲良し計画の作戦を立てようか……洗い物の後で!」

「そうだな。あ、サキ姉の分も作る? それなら俺が洗い物するけど」

「うん! 朝は散々だったから……成長したところを見てもらうんだ。私さっきオムライスの真理に辿り着いちゃって——」

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