華のある訳アリ同級生を助けたら同居することになった件

日上口

プロローグ 花の散る先

「私、結城ゆうきに会えて本当によかった。大好き」 


 心地よい潮風を浴びて、砂浜を二人歩きながら、彼女はそう言った。思わず立ち止まり、振り返った。「唐突だね」なんて言って照れ隠ししようとしたが、彼女の済んだ瞳に全て見透かされているような気がしてならなかった。じっと彼女は見つめてくる。さっさと返事をしろという圧を感じる。


「俺も、彪香ひょうかと一緒に居ると……楽しいよ」


 嘘ではないが全てではない返事。彼女への気持ちのほんの上澄みを掬って言葉を紡いだ。なぜだかこの溢れんばかりの想いを伝えるのは今ではない、そんな直感があった。そして、言わなくても自分の気持ちは通じている……そんな自惚れがあった。


「——いくじなし!」


 彼女は怒るでも落ち込むでもなく、至極楽しそうにそう言って、勢いよく俺の胸に飛び込んできた。受け止めきれずに二人して砂浜に倒れこんだ。彼女の奔放さが可笑しくて、俺が笑うと彼女もつられて声をげて笑いだした。

 高校二年、18歳。俺達は世界で一番美しい青春を謳歌していた。はずだった。


「彪香……! なんで……」


 次の日、俺の愛する人——笛吹彪香うすいひょうかは姿を消した。

 これは彼女との出会いと別れ……そして再会の物語だ。

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