第6話 機嫌悪目なJKと海
五月三日の分ということにしておきます。幻覚多めの回です。
中央の部屋に帰ってきた3人。しかし、彼女の機嫌が悪いことも相まって、空気が張り詰めている。そんな中動き出す者が1人。詠が最後の扉、さっき出てきた扉とは対面の場所にある扉に手を伸ばした。
権三は部屋の中央で三角座りをしていてエネによしよしされていて、クリムゾンはそんな二人の間であたふたとしている。が、そんなことは気にせず咏は扉を開けるとそこは...海であった。
予想のしていなかった光景に思わず唖然としてしまったのは海が身近になかったであろうクリムゾンだけであった。詠は特に目立った反応はなく、権三は海を感じて少し反応があったが、そんなことより今は、服が汚れた事で思考がぐるぐるしていてそれどころではない。
彼が一声、彼らに向かって先行ってるぞと声をかけ行ってしまい、この部屋に残された3人の間に、何とも言えない空気が漂う。
そこで最初に口を開いたのはクリムゾンであった。
「大丈夫ですか?紫月さんは先行っちゃいましたけど。僕も行こうと思うんですけど、権三はどうする?待ってる?」
「...行く。」
そういうと彼女は不機嫌なままだが立ち上がり、海の扉へ向かっていった。その様子を不安そうに眺めるクリムゾンであった。
しかし、そんな彼の不安も杞憂に終わる。なぜなら、扉を開けたとたん権三の表情が明らかに柔らかくなった。それもそのはず、彼女の視線の先にはそう、海に浅く足を入れている咏がいたのであった。彼はただこの海が本物の海であるか、どこまで広がっているかを確認しているだけのようだが、彼女にとっては何か違う景色が見えているに違いない。きっとそうである。現に今、固まっているのだから。そこに恐る恐るクリムゾンが話しかける。
「あのぉ、綾小路さん?どうかしましたか?」
(え、何あの姿。水の滴るいい男すぎるってばよ。さっきとはうって違って、海に入るために裸足になってるし、裾が濡れないようにまっくっているだと。そしてそこからも見える肌がまぁ白い事。不健康が過ぎる、もっと外に出てクレメンス。何より、あの汗。確かにこの部屋は白い砂浜と少しのヤシの木と緑地、そして大半を占めているのが海。ここの部屋は明らかに室温?気温がほかに比べて高い。だからこそ、日に当たってるだけで汗がにじみだすくらいには暑い。イケメンが汗をかいているこの状況。おいしいに決まってるんだよなぁ。あぁ、なんてかっこいいのだろう。いや、落ち着け私。海といえば、水を掛け合ってキャッキャウフフするって相場が決まっているんだよなぁ。そうと決まれば善は急げだ。)
クリムゾンが声をかけたが、反応はなかった。しかし次の瞬間には、さっきまでの機嫌の悪さが嘘のように消え失せていて、まるで水を得た魚のように裸足になり、咏がいる海の方へ駆け出して行ったのであった。
「しーづーきーくんーーーあーそーぼーーー♪」
「お、来たのか。ってか、なんかさっきと比べて元気すぎないか?おい、まさかとは思うが、水をかけてきたりしないだろうな???」
「よーくわかってんじゃん!海と言ったらこれだよねぇ♪」
「おいまて、やめろ。早まるんじゃない。」
そういったのもつかの間、えーいという掛け声とともに権三は水をかけてきた。そしてその水をかけられてたまるかという詠。そこで咏は悪手を打ってしまうのであった。
「おい、クリムゾンこいつ何とかしてくれ...」
「え、っあ、その...ぼくもいーれーてー!」
「ってお前もそっちの民かよ!!!はやまるな、お前まで来たら...」
そんな彼の言葉も届かずにこの場に3人目の乱入者がやってきたのである。するとどうなるかって?勿論決まっている。混沌のはじまりだぁ。こういうのって部外者が見る分には面白いんだけど、関係者からするとたまったもんじゃない場合もあるよね。
明らかに紫月に向かって水をかける権三、こういうの一回やってみたかったんだなぁという気持ちで参加しているクリムゾン。そして、そんな水かけ合いから逃げる詠。その図はまるで海辺でイチャイチャしている奴である。男女が逆な気がするが。
そんなことをしていると無差別にかけまくっているクリムゾンの水しぶきが不意に権三に当たった。それに気が付いた権三は標的をクリムゾンに変えた。そうして詠は難を逃れて、緑地の方に石板探しをしに逃げていったのである。
そうして数分後。ついにその時が来てしまった。はしゃいでいる二人だが、とうとう権三が波に足をとられて転んでしまったのである。それと同時にクリムゾンもまた慣れない海だったため、それはもう盛大にずっこけた。この瞬間、一気に空気が凍り付いた。尻もちをついた権三とずっこけたクリムゾン。彼女は何も言わず砂浜に戻っていった。彼の方はというと、うわぁぬれたぁという感じでおもむろに服を脱ぎだし、服を絞り始めた。特に慌てるようなことではないらしく、手慣れた手つきで絞っているようだ。ただ、権三の機嫌がまた悪くなったことで、気まずいと思っているようだ。
彼女は濡れたまま砂浜で体育座りをしている。べたべたで最悪といったところか。
そんな様子を見て、紫月が声をかけてきた。
「水絞るだけ絞っておけよ。そうしたらその分早く乾くはずだぞ。ほら。」
そうして彼はおもむろに彼の着ているカーディガンを脱ぎ、権三にそっとかけて、また緑地の方に帰っていった。その時の彼女はというと。
(うぇ?まじ?え?)
あまりの突然のことだったので脳の処理が追い付いていないようであった。
次回へ続く
*文の加筆、誤字訂正。
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