悪魔である

生焼け海鵜

第1話

 勇者は血を吐き倒れている。

 勇者は、この世の悪であろう、魔王を倒すべくして魔王城に訪れたのだ。

 しかし、このザマを見るからに、その結果は得られなかったようだ。


 勇者は、血反吐にもならないその体液を吐き捨て、穴の空いた体を押さえている。彼に死をもたらしたのはハーピーの姉妹であり、彼女らはつまらなそうな笑みを浮かべた。

「空お姉ちゃん。このヒト弱かったね」


 勇者の抵抗は、彼自身の死亡時刻を遅らせるには丁度良かった。しかし、その秒数は盛って数分である。自分の非力さを憎むべきである勇者は、とうとう狂ったのか、ハーピーの事を酷く憎み睨んだ。


 ハーピーはそんな彼を嘲笑し、弱い身体を蹴ってみせる。

「何ですか? その目付きは。お前自身の力量がちょいと足りなかっただけで、こちら側を睨みつけるのは筋が違うのではないか?」


 勇者は声を出そうとするも、喉が鳴るばかりで望んだ声はいつまで経っても叶わない。そればかりか、ポコポコと溢れ出た血が死亡時刻を早めるだけであった。


「早く死ねばいいのに。何故そんな、見るに堪えない醜貌を晒し続ける? お前は自身を情けに思うだろう?」


 勇者にとどめを刺したのは、彼自身であった。誰かを助ける、そんな良心を忘れきった勇者は、自分を殺した存在への"憎み"しか頭に無い。

 腐敗した亡骸は蛆を産み虫が集るたかる。魂は、ハーピーらに回収された後、術の消耗品として使用され、亡骸が腐り始める頃には、とっくに無くなっていたのであった。


 そんな勇者の前に姉妹が現れるのは、一ヶ月後である。


 無論、勇者の亡骸は彼女らの目に入った。しかし、勇者の事を覚えているはずもなく、"なんだっけ?"と視線を送る。


 門の前、そんなものが落ちているのは邪魔であり、捨てなければならない。

 彼女らは、近くの崖まで骸骨を蹴り遊び、落とした。

 カラコロと割れ落ちていき、その命が新しく芽吹く事も無くただただ、乾いた音を発するのみである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔である 生焼け海鵜 @gazou_umiu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る