俺の好きな幼なじみが、自分は金魚で、いちゃいちゃしたいといいだして、どうしたらいいのかわからない
つづり
第1話 金魚と名乗る幼なじみは、いちゃいちゃしたくてたまらない
「ねえ、金魚ね、いちゃいちゃしたいの! 君と」
そう突然言い出したのは、幼なじみの愛理だった。
俺は愛理の提案で、大きな公園に来たのだが、まさかこんなことをいわれると思わなかった。
はじめに言っておこう、愛理はこんなことをいきなり言い出さない。もし話の切り出しで、言うとするならば。
「あんたさ、幼なじみだからっていつまでも、子供みたいに仲良くしていると思わないでよ」
こういう感じである。切れ味が鋭いのである。なんせ彼女は、昔は素直だったが、今となっては……というたぐいなのである。俺は彼女のことが好きなのだが、最近毎度こんな態度なので、心が折れ気味だった。
「今日はー休日なんでしょ、いっしょに金魚とデートしようよー」
金魚、金魚と言ったのか、愛理は。
いつから金魚になったのだ、昨日と変わらない姿じゃないか。どっからどうみても人間である。
俺が戸惑っていると、金魚と名乗りだした愛理は、ずいっと俺に近づく。
「どうしたの? どうしてそんな顔をしているの?」
顔が近すぎる、ガチ恋距離かと思ってしまう……!
赤面して、身を引くと、愛理はさらに不思議そうに詰め寄る。
「ねぇねぇ、逃げないでよぉー」
いやいやいやいや、何を言っているんだ、愛理さん。
俺は戸惑いすぎて、若干引いていた。いやホントどうしたんだ、愛理は。自分は金魚とか言い出すキャラじゃないだろうに。
俺は深呼吸した。そして聞いた。
えっとさ、愛理そんなキャラだっけ……
「キャラ、キャラってなあに?」
だめだ、現実に俺の頭がついていけない。
どうしたらいいんだ、どうすればいいんだ……。そこでふと思い出した。昨日愛理と喧嘩とまではいかないが、言葉の行き違いがあったことを。
最後に彼女はこういったのだ。自虐的に。
「私、なんでこんな可愛くないんだろうね……もっと可愛ければよかった」
彼女はもしかしたら、あの言葉のとおりに、可愛くなりたかったんだろうか。そして原因がさっぱりわからないけど、金魚だと言い張る不思議ちゃんになってしまったと。
なんだかそう考えると、愛理がいじらしくなり、切なくなる。
「ねえね、金魚といちゃいちゃしてくれないの? デート嫌なの?」
金魚の言葉に俺は頭を横に振った。そんなことないよとしっかりと伝える。すると金魚はニコニコと無邪気に笑った。
「わーい、じゃあ、いちゃいちゃしよー!」
愛理……いや、金魚は俺にぎゅっと抱きついた。じんわりとした温もりと柔らかみが押し付けられる。とくに胸の膨らみがしっかりとあたって、あまりの刺激に頭がくらくらする。
女の子ってこんな柔らかいのか。
呆然としそうな自分に活をいれる。いかんいかん、まだデートは始まったばかりなのだ。
「頭ぽんぽんして、撫でて」
え、そんな古典的な……!
彼女はきらきらとした視線を向ける。
ああ、これはめちゃくちゃ期待している視線だ。逃げられないやつだ。シャンプーの甘い香りが鼻を覆うように感じて、心臓がドキドキする。彼女は存外強く俺に抱きついていた。撫でなければ、話す気がなさそうだ……俺は恐る恐る頭を撫でた。
さらさらした毛が気持ちいい……愛理って可愛いと思っては居たが、実際に触れると魅力が三倍増しに感じる。めちゃくちゃかわいい……じっくり触りたくなるくらいに。
しかし現実は無情で、金魚はあっという間に離れてしまった。抱きついて、頭を撫でられれば、それで満足したらしい。
ニコニコとしたまま、可愛く声を上げた。
「今日はー、いっぱい遊ぼうね」
そして近くのアイス屋に向かって駆け出していく。
俺は手に残った彼女の感触の鮮やかさがすごすぎて、脱力しそうになった。まだ午前中なのだ、この後きっと一日中デートなのだろう。
俺の理性は持つのか、それともあってはならないが、ちぎれるのか。めまいがするほどに魅力的な少女を前にして、自分に負けられない一日が始まった。
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