第二十七話 「焦点」

"ジジッ....


「―――――....」


"カタカタカタカタ.....


「そして―――――


「亜矢子さん...」


室内にVR映像の装置の音なのか、


映写機の様な音が鳴る中、鮎人は


残された第二、第三の事件について説明しようと


ホールの中にいる全員を見下ろす――――


「そして、四つの事件の内、


残りは第二、第三の事件―――...」


「ちょっと待って」


「―――何ですか?」


鮎人がイに向かって二つの殺害現場の


映像を出す様に目配せすると、


その言葉が終わるか終わらないかすぐに


ステージの前にいた小澤が再び声を上げる


「その第二、第三の事件現場はこの間


私達ももう見たよね?」


「そうでしたね・・・」


部屋の中にいる、何人かの事務所のスタッフ達は


事件のVR映像を見た事に


驚いた様子を見せているが、すでに


この小澤や咲茉、そして他の何人かのスタッフは


今鮎人が説明しようとしている


二つの殺害現場の映像をすでに見ている


「・・・第二の殺害現場は、


 このシアターホールから


 少し離れた場所にあるレストランで、


 映像編集の・・・浅野・・・じゃなかった


中井出くんが、何か女の人みたいな


 弱い力の人間に不自然な


倒され方をして死んでた...」


鮎人の事件現場の状況の説明が


冗長だと思っているのか、小澤は


ステージ上の鮎人を見上げながら


早口で殺害現場の状況をまくし立てる


「・・・・」


「そして犯人の胸の辺りに刺し傷があって、


そのVR映像によって推測される


 凶器の様な物は


"パソコン"の様な形状の物だった...」


「ぱ、パソコン?」


「じゃ、じゃあ――――


「・・・そして、第三の殺害現場――――」


第二の殺害現場の状況を聞かされていなかった


事務所のスタッフの何人かが、


驚いた様な声を上げるが小澤は


続けて第三の事件現場の状況説明を始める――――


「第三の殺害現場は


 このオーシャニアクルーズの屋上にある


 展望大浴場の女性専用ロッカールームで


衣装の小田切さんが死んでいた―――」


「美香・・・」


「千晶さん....」


小澤の口から出た小田切の名前を聞いて、


普段メイクと衣装と言う仕事の関係性からか


小田切と親しくしていた村上が


小澤の言葉に顔を俯ける


「・・・そして、小田切さんは


ロッカールームの中で倒れていた....」


「・・・・」


「犯行現場、ロッカールームの隅の方には、


"髪の毛"の様な物が落ちていて、


それは、この船内に持ち込まれた


RS事務所の所有している衣装用の小道具の


 "茶色い"髪の毛のカツラだった――――」


「・・・ずい分詳細に覚えてるみたいですね」


「―――――」


事件を事細かに説明する小澤に鮎人が


感心した様な表情を見せるが、


小澤はまるで鮎人に取り合わず


ゴーグルを掛けたままステージ上の


鮎人を真っすぐ見上げる


「もし、鮎人。 


 ・・・アナタがすでに、「犯人が分かった」


そう言うんだったら、あなたは今説明した


事件現場の状況、そして証拠品から


 犯人の事を突き止めたって事に


 なるんでしょう?」


「――――....」

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