第二十五話 「盲点」

「おかしいな・・・・」


「―――何も無いんですか?」


「いや、さっきデッキの上で見た


VR映像の文章だと、この地下1Fの


 休憩室に次の手掛かりがあるみたいな事


 言ってたんだけど・・・」


「さっきから、何も無いんですけどー」


「(・・・・)」


この地下1Fの休憩室で、


次の手掛かりを探し始めてから十五分程経つが、


「(・・・さっきのVRの文章だと、


"暗い、地の底に一時の憩いを求め


霧の奥底に眠る言葉を紡ぎ出せば、


  新しい世界の扉を開くための


鍵となるだろう"


  って書いてあったよな・・・・?)」


"ガサッ"


「(・・・・)」


鮎人は、少し前にデッキの上で見た、


何かよく分からない船のマストに浮かび上がった


VR映像の文章を写したメモが入った携帯を


ポケットから出す


「何か~ さっきから同じとこ


 探してる様にしか見えないんですけど~」


「・・・少し、静かにしてくれないか」


特に非も無いのに気安く文句の様な事を


言って来る澪の言葉を聞いて、


手掛かりが見つからないせいもあってか


鮎人は少し苛立つ


「何か~、韓国語で色々書いてありますよね~」


「・・・イの趣味か何かなんじゃ無いか」


"韓国語"


「(・・・・)」


先程から、この休憩所内を探している時から


気になっていたが、この室内にはやたらと


韓国語の文章で書かれた紙や、


看板の上の文字を見かけるが、鮎人は


それが在日韓国人である


イの個人的な趣味だと思い、


特にその事について深く考える事はせず、


休憩所の周辺を探し回っていた


「嘘っそ~ 咲茉に負けるとか、


 ガチでありえないんですけど...」


「・・・・」


特にこのVRゲームの勝ち負けに


こだわるつもりは無いが


あまり勝負事に負ける事を好まない鮎人は


澪の一言にあせりを感じる


「お前、ゴーグルは外してるのか?」


「え~....」


鮎人が澪の方を見ると、澪は


このVRゲームに必須であるゴーグルを


顔から外し、自販機の前で缶ジュースを飲みながら


テーブルに座っている


「・・・そう言う鮎人さんだって


 外してるじゃないですか」


「いや、俺は今、メモとか見たりしてるから


 ゴーグルを外してると見にくいだろ?


 ・・・俺がゴーグル外してるからって


そっちはちゃんとゴーグルを付けてくれないと


何かあったら、分からなくなるじゃないか」


「・・・・」


"カチャ"


「・・・・あっ!」


「?」


鮎人の一言に、澪が仕方なさそうに


ゴーグルを掛けると、すぐに驚いた声を上げる


「―――あ、鮎人さん....ま、前?」


「...どうしたんだ?」


"カチャ"


「(―――――!)」


"ボォォォオオオオオオオオオオオ"


「("ハングル"―――――!)」


「こ、これ、翻訳文か何かですよね?」


「・・・・みたいだな...」


"ボォォォォオオオオオオオ"


「(・・・・・)」


澪の驚いた声を聞いて鮎人が首にぶら下げていた


イに手渡されたゴーグルを掛けると、


先程までまるで興味もない、読めもしなかった


韓国語で書かれた看板や紙の下に、


鮮明なVR映像の


"翻訳文"が浮かび上がって来る――――


「(・・・・)」


【女子トイレの中に行け】


「こ、これが次の手掛かり?」


「―――そうみたいだな....」

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