「死出島密室島連続殺人事件;弐~八年の月日」

ろわぬ

第一話 「VR客船」

「あ、鮎人さん―――っ!」


「・・・どこだっ!?」


「――――え....??」


"ガタッ!


「あ、ちょ、・・・・!」


旅客船、


"オーシャニアクルーズ"


「―――今度は、誰が死んだんだ!?」


「ッ・・・」


"ガタンッ!"


「(また、こうなるのか―――!)」


「あ、鮎人さん!」


「―――退けッ!」


「あッ!」


"ガタタッ!"


オーシャニアクルーズ、船内。


「(もう、こんなのはたくさんだ―――...


自室で、今まで起きた事件の整理をしていた


マネジメント会社に籍を置いている


"並河 鮎人(なみかわ あゆと)"


は、自分がマネジメントをしている、若い女性


"吉川 澪(よしかわ みお)"


が慌てて部屋に入り込んで来た事に、


すぐに自室の扉を開け船内の通路へと飛び出る!


「(宏美――――...!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おいっ 鮎人! 


 ―――そっちにあるビール取ってくれ!」


「・・・ああ」


"ガシャッ"


オーシャニアクルーズ。


「(・・・・)」


百名ほどは乗れそうな広い船のデッキの上で、


鮎人が船の端の手すりから


クロムオレンジに染まりかけた洋上の


海を眺めていると、すぐ後ろにいた


鮎人が所属する芸能マネジメント会社の


関連会社で働いている在日韓国人、


"이강린'(イ・ガンリン)"


が、氷を入れたアイスペールの前に立っていた


鮎人に向かって話しかけて来る


「どうした・・・アユト」


「・・・どうしたって、何がだ?」


特に何かをしていた訳でも無く、


ただ、夕暮れに染まる船の上から辺りの景色を


眺めていた自分を心配そうな目で見ている


イの言葉を聞いて、鮎人は


不思議そうな表情を浮かべる


「―――"ヒロミ"の事だろ?」


「・・・・!」


鮎人に向かってイが女の名前、


それも日本人の女の名前を口にすると


先程まで落ち着いた表情で


船の下の景色を見下ろしていた


鮎人の表情が大きく変わる


「・・・別に。」


「・・・・」


"ガシャッ!"


「―――おっと」


"パシッ!"


「―――とりあえず、向こう、


 もうデキあがってるみたいだぞ?」


「・・・ああ、後で行く」


「・・・・」


"ガシャッ"


イは、鮎人が投げたアイスペールに入った


ビール瓶を掴むと、そのまま少し離れた場所の


一段高い場所のデッキの上に置かれた


テーブルの周りで騒いでいる、


事務所のスタッフがいる方へと向かって


歩いて行く


「(宏美、か―――...)」


「アハハ!」


「それじゃ、今はフォロワー二万人もいるの!?」


「・・・・」


"ザアアアアアアアアァァァァァァ...."


「(あれから、八年か―――)」


同僚達が、何か酒を飲んだりして


声を上げているが鮎人はその事務所の


同僚達から目を背けると、再び手すりの側に立ち


そこから見える夕暮れの


景色に目を向ける―――....


「(死出島―――...)」


"ザアアアアアアアアアァァァァァ――――


鮎人達を乗せた、オーシャニア・クルーズの


スクリューが、その船の後影に


大きな澪を立てながら


夕暮れの海の上を走って行く――――


「(・・・・)」

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