第27話

「よいしょ」


バタッ


「君を仰向きに戻すのは簡単だな」


「横に倒すだけだから」


「……」


「反対の耳を掃除するには、もう一度横向きにしないといけないのか」


「まったく」


「自分で動いてほしいものだ」


「……」


「文句を言っても始まらないよな」


「何事も自分で動かなければ」


「よし」


「腕を持って……」


「ふんっ!」


グッ


「うおっ!?」


ズルッ

バタッ


「す、すまない……!」


「わざとじゃないんだ」


「足が滑って転んでしまって……」


「君の上に倒れた、だけ……」


「……」


「……」


「少し」


「少しだけ」


「このままでいいかな……」


「……」


「とは言っても君は動けないんだ」


「拒否権はないよ……」


「……」


「こうして君の胸に耳を押し当てると」


「なんだかすごく落ち着くな……」


「私の心臓はもう動いてないから」


「君の鼓動がすごく懐かしく思える……」


「……」


「ああ」


「こうしていると」


「人の温もりを感じる」


「君に触れていると」


「君との繋がりを感じられる」


「……」


「ありがとう」


「私のわがままに付き合ってくれて……」


「……」


「私の言葉なんて幽霊の戯れ言」


「君が律儀に生活指導なんてものを守る必要はないんだ」


「それなのに君は……」


「……」


「君ってやつは変なやつだよ……」


「馬鹿みたいに守って、挙げ句にご褒美なんて要求して……」


「私は」


「君といるのが楽しくなってしまった」


「……」


「きっと君もそうなんだろ」


「……」


「……」


「でもダメだぞ」


「私はもうすぐいなくなるんだから」





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