第13話

「……」


「生活指導の話だ」


「私は昨日たしかに言ったな」


「明日帰ってすぐ手洗いができたらもっと良いことをしてやる、と」


「それで今日の判定なんだが……」


「……」


「あの、とても言いにくいんだが……」


「その……、何て言うか……」


「……」


「見てなかった」


「……」


「だから分からないんだ……」


「うわっ!」


「な、なんだその目は!?」


「血走ってるじゃないか、怖い!」


「声も出せないし指先ひとつ動かせないのに、どうやったらそこまで感情を表せるんだ……」


「そんなにキスが欲しかったのか……」


「本当に君は破廉恥だな」


「ただその様子と書き置きを見るに、君は今日しっかりと手洗いをしたんだろう」


「うん。偉い!」


「だが、すまない」


「見てないものは見てないからな」


「褒美はやれん」


「お、おい」


「すまなかった、許してくれ」


「そんなに悲しい目をするな」


「また明日手を洗えばいいだろう」


「な?」


「元気を出せ」


「言い訳をするようだが、いくら私でもいつも見ているわけじゃないんだ」


「前にいつも一緒にいると言っただろう?」


「それは本当だ」


「私はこの部屋を出ることはできない」


「ただこの部屋にいる間に消えることはできるんだ」


「霊体化?というやつかな」


「省エネモードだと思っていい」


「君が部屋にいない間とかは主にそうしているんだ」


「それで君がそろそろ帰るかな?って頃に実体化して部屋で待っている」


「今日はそれが間に合わなくて君の手洗いを見れなかった」


「本当にすまない!」


「ああ、それと」


「実際にコミュニケーションが取れるのは、こうして君が金縛りにあっている時だけだ」


「だから私は、この短い時間を1番楽しみにしている」


「と、いうことでだ」


「明日は必ず見るようにするから、安心して出かけてくれ!」


「じゃあ、また明日!」


「おやすみ!」


「……」


「あと……」


「破廉恥はほどほどにな」






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