第5話

「ふふん」


「おはよう」


「それともまだ半分は夢の中かな」


「だが残念」


「これは現実だ」


「私は君の目の前にいる」


「君の体の上に乗っている」


「重苦しさを感じるだろう」


「暗くてよく見えないか?」


「ならばもう少し近づこう」


「……」


「ふぅ」


「吐息がかかる距離だ」


「これなら見えるだろう」


「うん」


「これで良し」


「そろそろ本題に入るとしよう」


「……」


「今日は君を誉めに来たんだ」


「それは何故か」


「今日、君は忘れ物をしなかっだろう」


「朝にしっかりと確認をしていたな」


「いつもは携帯や鍵を忘れる君が、だ」


「これはとんでもない進歩だ」


「だから君を誉めよう」


「耳元で、愛を囁くように」


「よくやった」


「君は偉いよ」


「すごいじゃないか」


「良い子だ」


「……」


「私は嬉しいよ……」


「私は君を近くでずっと見てきて、今はこうして語りかけている」


「でも君は動けないし喋れないから、私の声が届いてるかわからないんだ」


「だからね……」


「もし、私の声が聞こえて、私の生活指導を受けて、君が忘れ物をしなかったのなら……」


「私は君と繋がっている」


「そう思えるんだよ」


「だから、ありがとう……」


「私はとても嬉しいよ……」


「……」


「さぁ!もう十分誉めただろう!」


「終わりだ、終わり」


「これ以上はダメだ」


「顔が熱い」


「それに、君みたいのはあまり甘やかすと、すーぐ図に乗るからな」


「とっとと寝ろ!」


「また明日な!」


「忘れ物するなよ!」

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