里帰り[完]

親の事をこんな風に慕い、

大切に思っているのか…

こんな風に、優しい言葉で

こんなに精一杯、心を込めた

スピーチを…


私、勝手に

世の中の日本男子

口下手で不器用

照れ屋で無口…

と、思い込んでおりました。


勿論、

この息子さんがとても

お優しい方で無口だけど

きっちり、

言わなきゃいけない時は

堂々としてる…

男子でいらっしゃるのでしょう


えぇ男やぁ〜

まるで

「寡言にして最も思慮深く、

勇断に長じ偶々一言を発すれば

人の肺腑を貫く…以下略」


なんでしょうか…

よき

大いによき


ほんとにお幸せな

ご両親様だなと

胸が熱くなりました。


言葉の端々からも、

優しさと思いやりが

溢れていました。


少し、声に詰まりながらも

息子さんは、

「父さん、手術よく頑張ったね、

父さんは、いつも言葉が

足りないから、俺ら兄妹も

母さんも、大丈夫なんだと

誤解してしまう。

これからは、弱音も吐いてくれよ!

いちばん困るのは、

傍で支えてる母さんなんだから。

正直、

もう少し長生きして欲しい。

なんも親孝行出来てないし、

やりたい事もあるんだろう?

母さんと2人で

小さなキャンピングカーで、

各地の温泉巡り行くんだろ?

なら、これからそうしろよ!

母さんと2人で温泉巡りしろよ!」


「病気なんか、してる暇ないぞ!

これ迄、俺らの為に頑張って

来てくれたじゃないか。

孫が出来て少しでも小遣いを

上げられるように、って、

毎日500円貯金始めた事や

大好きな酒もやめた事、

いつでも孫達とビデオ電話が

出来るように一生懸命スマホを

練習してる事、

母さんから聞いたよ」


「ありがとう、

ほんとにありがとう。

心配と迷惑しかかけて

来なかったけど、この世で

いちばん尊敬してる父さんと、

愚痴ひとつこぼさずいつも

黙って見守ってくれてる母さんに、

今日はゆっくりこの宿を

楽しんで貰う事と

女将が持ってるキーを

俺ら皆から心を込めて、

贈ります」


我慢できず、水屋の陰で

嗚咽が漏れそうになりながら

聞いていたので、


涙でよろよろになって

私、転げる様に皆様の前に出ました…


せっかく、ピシッと

着物で、しっかりご挨拶を

と、思ったのに…


涙と鼻水と、感動で

何、言ったか、忘れました。


感動の涙、ヤバいです。

コントロール出来ません。


いやいや、

ご両親様より泣いてるから…


お食事が終わってから、

駐車場に停めてある、

HONDAの

N-BOX キャンパー Neo

を見に行きました。


これ欲しい…

私が欲しい…

と思いましたが、また

目頭の奥がヤバいことに

なりそうだったので、

その場は、お暇しました。


その二年後、

息子様よりお手紙が届き、

お父様の癌が再発され

先日、他界された由


常々、あのお宿は良かったな

もう一度行きたかったな

キャンピングカーでの

温泉巡りは楽しかったな


母さんと2人で最後に

もう一度、あの泣き虫女将に

会いたかったな…


ありがとう

ありがとうと話してくれた

翌日に息を引き取った、

と、書いてありました。


読み返しては

大泣きしている、女将です。


都会まち逃れ

優しさの待つ

解夏の里


※禅宗の修行僧は、

夏の90日間【庵】に集まり

共同生活をし、座禅三昧の

修行に入ります。


《雨安居》うあんごと呼ばれる

修行です。

その始まりを結夏けつげ

終わる日を解夏げげと言います。


元々、インドの雨季にあたり

虫の卵や草の芽が生じる生命の

誕生の季節で、修行僧が

行脚する事により、

殺生してしまうのを避ける為の

習慣だったそうです。



故郷を離れ、親元を巣立ち

都会の喧騒の中、

学業・仕事等々、

様々な人々が厳しい社会で

ストレスを抱え、

苦しみ、悲しみ

言えば、

修行をしている様なものです。


お盆で帰省する人々の顔は、

故郷に近づくにつれ、

穏やかな表情へと

微笑みへと変えながら、

優しい人が待つ、

それぞれの家路へと

消えていきます。


現実(修行)を小休止して

ふるさとへ帰ろう

懐かしいあの人の元へ帰ろう


いつも心配ばかりかけて

しまっている人に

お詫びをしよう

孫の成長を見せてあげよう


子供の頃の様に、

トンボを夢中で追いかけ

時間を忘れて遊んだ


そんな無垢だった心を

取り戻そう


想いはとめどなく

心は既に故郷へ。


そんな、いつもは遠く

離れている故郷への愛敬、

思慕を込めて詠ってみました。


この時の夕食の手書きメニューの

末尾に

拙い自作の俳句も合わせて

添え書きさせて頂きました。


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