変化とは、常に勇気を必要とするもの。――7

『ギャギャッ!』


 攻撃が空振りに終わったことに苛立ったのか、ゴブリンが牙をむき出しにして、2体目のマナウィスプに棍棒を叩きつける。


 もちろん俺は即座に反応してリッチの秘宝を使用。マナウィスプを生け贄に捧げ、きっちりMPを回収する。


 3体目、4体目も同様。チャンプブロック → リッチの秘宝で生け贄 → MP回復の流れでゴブリンを足止めした。


 俺のMPは、マナウィスプ召喚前と同じあたい、130になっている。


「次はこいつだ!」


 戻ったMPで、俺は四体のクリーチャーを喚び出す。


「『分裂アメーバ』、召喚!」


 カードが消滅し、中型犬くらいの大きさをした、半透明のゲル状生命体が現れた。




・分裂アメーバ

 カードタイプ:クリーチャー

 消費MP:10


【ステータス】

 HP:18/18

 MP:6/6

 攻撃力:3

 防御力:6

 魔法力:3

 魔法耐性:4

 敏捷性:1

 精密性:1


【スキル】

 分裂:自身が戦闘不能になったとき、同じステータスでHPが1/1の分身を生成する。




 これまた低ステータスのクリーチャー。マナウィスプと同じく、ゴブリンの相手にはならない。


 それでいい。こいつもチャンプブロック要員なのだから。


『ギャギャッ!』


 新たに現れた敵に、ゴブリンが棍棒をスイングした。


 マナウィスプのときと同じく、俺はやられる前にリッチの秘宝を使用して、分裂アメーバを生け贄に捧げる。


 面白いのはここから。戦闘不能になった分裂アメーバが、消滅する寸前、分身を生成したのだ。


 スキル『分裂』の効果。分身のHPはたった1しかないが――


「発動しろ、リッチの秘宝!」


 はなから生け贄に捧げるつもりだったので構わない。


 本体+分身を生け贄に捧げたことで、俺は合計で10のMPを得る。


 二体目、三体目、四体目に関しても同様。本体と分身を生け贄に捧げ、30のMPを獲得。またしても、俺のMPは130に戻った。


 クリーチャーを喚び出して、チャンプブロックで足止めをさせて、リッチの秘宝で生け贄に捧げる。一見いっけん、時間稼ぎをしているようにしか思えないだろう。そんなことをやっていても勝てないと言われるだろう。


 だが問題ない。俺の作戦は狙い通りに進んでいる。


 順調順調。あと少しで準備完了だ。


 頭の片隅かたすみで状況を整理しながら、俺は1枚のソーサリーを用いた。


「『カカシ作り』、発動!」


 カードを用いると同時に、六体のカカシが横並びに現れた。畑や田んぼにあるものとなんら変わりない。竹とわらでできた体、へのへのもへじの顔、頭に麦わら帽子を被った、あのカカシだ。




・カカシ作り

 カードタイプ:ソーサリー

 消費MP:20

 効果:クリーチャー『カカシ』を6体喚び出す。


・カカシ

【ステータス】

 HP:5/5

 MP:1/1

 攻撃力:1

 防御力:1

 魔法力:1

 魔法耐性:1

 敏捷性:1

 精密性:1




 カカシのステータスはあまりにもひどい。HPが5、ほかはオール1。召喚獣としては完全に落第らくだいだ。


 だが、いま俺が重要視しているのは、戦闘で役に立つかどうかじゃない。リッチの秘宝を活用できるかどうかだ。


 その観点かんてんでは、カカシ作りは非常に優秀なカードと言える。


 なぜならば――


『ギャギャッ!』

「発動しろ、リッチの秘宝!」


 チャンプブロック要員になるうえに、リッチの秘宝の生け贄にもなってくれるクリーチャーを、六体も喚び出してくれるのだから。


 カカシを六体生け贄に捧げて、獲得したMPは30。カカシ作りを使用するために必要となるMPよりも、10多い。


 結果、差し引きで10の増加。ここにきて、俺のMPは140になった。


 マナウィスプも分裂アメーバもカカシもいなくなり、この場に残っているのは俺とゴブリンだけ。


 ゴブリンと対峙たいじしながら、俺は、ふぅ、と息をついた。


「よし、準備完了だな」

『ギャギャッ?』


「なんの準備だ?」と言うように、ゴブリンが眉間みけんしわを寄せる。


『ギャギャギャッ!』


「なにをしようと返り討ちにしてやる!」と言うように、ゴブリンがつばを飛ばす。


『ギャギャギャギャギャッ!!』


「ぶっ殺してやる!!」と言うように、ゴブリンが突撃してきた。


 棍棒を振りかぶり、ゴブリンが襲いかかってくる。俺を叩き潰そうと迫りくる。


 しかし、俺に恐怖はなかった。


「最後のカードだ」


 俺にはとっておきがあるからだ。

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